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DMMのVRリサーチャーがみたIEEE VR 2019 Osaka

DMMのVRリサーチャーがみたIEEE VR 2019 Osaka

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はじめに

こんにちは! DMM VR labのパトリックです。
『GDC』に引き続き『IEEE VR 2019 OSAKA』にも参加して参りました。

『GDC』についての記事はこちらからご覧ください。

inside.dmm.com

『IEEE VR』は1993年から続くVRの国際学会で、毎年多くのVR研究者が論文を発表しています。
過去最大規模で開催された今年は、140の口頭発表、200を超えるポスターセッション、35以上のリサーチデモ、18以上のワークショップが行われました。

すべてをご紹介することは難しいので、今回も一参加者の視点でレポートしたいと思います。

ワークショップ

『IEEE VR』のワークショップは3/23(土)と、3/24(日)に主に行われました。
そのなかでとくに興味深かったのは、VRにおける様々な倫理の課題についてディスカッションを行った「EVR:The First IEEE VR Workshop on Ethics in VR」と、VR/ARの周辺技術により実現できる次世代の超人スポーツについて考察する「SHS: The First IEEE VR Workshop on Superhuman Sports」という2つのワークショップでした。

EVR:The First IEEE VR Workshop on Ethics in VR

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VRは現実のエッセンスを抜き出し、究極的には体験者にとって現実と見分けがつかないコンテンツを提供します。
そして文字どおりなんでもできるため、コンテンツを提供する立場としては高い倫理観が求められます。
ワークショップでは、「価値あるVRコンテンツを責任を持って創造するには?」をテーマに、少人数のグループでディスカッションを行いました。

ワークショップのオーガナイザーを務めたAna-Despina Tudor博士(London College of Comunication)によると、VR制作における倫理の問題は大まかに7つに大別できます。
1.Misrepresentation
 不正確な情報を誤って伝えること
2.Bias
 偏見・先入観を与えること、また偏見・先入観を持って情報を伝えること
3.Long term immersion
 長時間没入させること
4.Privacy
 ユーザーのプライバシーを侵害すること
5.Causing involuntary suffering or serous harm
 ユーザーにトラウマなど、実害を与えること
6.Improper distance
 コンテンツとの距離が近すぎること(没入しすぎること) 
7.Accessibility to fully immersive VR experience 
 究極的に高いVR体験へのアクセスのしやすさ

一歩間違えればユーザーに悪影響を与えかねない、というのはVRに限った話ではありません。そこで大事になるのは、「そのコンテンツにより、本当に世の中を良くしているのか?」という問いなのではないかというお話でした。

ディスカッションでは主にプライバシーの問題と過度な没入について活発に議論をしました。特に印象的だったのは、VRにおける自己同一性(アイデンティティ)をどう尊重するのか、という命題でした。
ユーザーの普段のアイデンティティとデジタルなアイデンティティは、コンテキストや文化的背景、本人の希望や理想を踏まえて、取捨選択できるように設計する必要があるのではないかという意見がありました。それを踏まえると、ユーザーがVRのアバターをどのように設定できるのかはとても重要です。同席していたFacebookの方は、Facebook spacesでは、ユーザーはアバターのジェンダーはあえて選べないようにしたとおっしゃっていました。
 日本においては、いわゆるVtuberやカワイイアバターなど、アニメや漫画表現から発展したアバター文化が主流のように見受けられます。一方で、同席していたアメリカとスペインからいらしていた方は、欧米ではリアルアバターを好む傾向にあると仰っていて、文化の違いをお互いに認識しました。

SHS: The First IEEE VR Workshop on Superhuman Sports

超人スポーツのスポーツワークショップでは東京大学教授の稲見昌彦先生の基調講演がありました。

twitter.com

基調講演では超人スポーツ協会の活動や研究について紹介がありました。

superhuman-sports.org

超人スポーツとは、

人間の身体能力を補綴・拡張する人間拡張工学に基づき、人の身体能力を超える力を身につけ「人を超える」、あるいは年齢や障碍などの身体差により生じる「人と人のバリアを超える」。このような超人 (Superhuman) 同士がテクノロジーを自在に乗りこなし、競い合う「人機一体」の新たなスポーツを創造します。

 とあるように、以下の3つ

(1) rely on technology for human augmentation to enhance a
human ability,
(2) involve physical fitness and skills and
(3) are played for fun, competition or health reasons.

①人間の能力を拡張・補助するために技術に依り
②身体運動やスキルと関わり
③娯楽や競技、健康維持のために行われる

物を指します。

超人スポーツは

(1)Enhancing players physical abilities (using exoskeletons for
example)
(2)Augment the vision of the player with technology to mix
reality with a virtual world.

①プレイヤーの身体機能を拡張(人工外骨格など)
②プレイヤーの視覚を、現実とヴァーチャルを混ぜる技術を用いて拡張する
ことによって実現します。

様々な認定競技があり、活動が行われているようです。

この超人スポーツを支える技術はVR技術と共通しているものが多く、特にハプティクス(触覚)デバイスについては今、様々な取り組みが進められているようです。

www.youtube.com

空気圧で伸縮するジェル筋肉のストラップを巻き付けたスーツで、ゲーム内で敵の攻撃にあたった際のフィードバックを受けるデモを体験しました(20秒あたりから伸縮の様子が見れます)。
確かに当たった衝撃は感じ取れましたが、正直”当たった”感覚よりも”掴まれた”という感覚に近く感じました。ゲームの内容をフィードバックの内容に合わせることでより没入感が高まるのではないかと思いました。
超人スポーツの領域においては、身体運動をより拡張・補助するために触覚が重視されているようです。ユーザー/プレイヤーが受け取る情報は基本的には映像・音声・触覚に集約されるので、近い将来スポーツに限らず、様々なコンテンツやメディアにおいて映像や音声と同じくらい触覚フィードバックが重視されるようになるのではないでしょうか。

ペーパーセッション

ワークショップが中心だった終末が終わると、月曜日からはVRに関わる論文についての発表を行うペーパーセッションが始まりました。
非常に興味深かったセッションは「Paper Session 1:360 Video 1」の「Motion Paralax for 360 RGBD video」という発表です。

このセッションでは、今まで3DoFでしか体験することができなかったVR動画を6DoFにする新しい方法についての研究発表がありました。

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VRにおける3DoF。yaw, pitch, rollの回転情報のみ同期することができます

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6DoFでは回転に加えて位置も取得することができます

研究についての詳細はこちらから確認することができます。

webdiis.unizar.es

360度のRGBの色情報に加え、Depth(深度)の情報を読み込み、2つの背景レイヤーと、近影レイヤーの3つに映像を分け、近影により生まれる背景の死角を自動的に自然に塗りつぶすことで、自然な6DoF動画を既存の撮影ワークフローを活かしたまま実現することに成功しています。
ステレオ3DVRと比べ、このメソッドではVR酔いを回避しながら、より没入感を高めることができるとしています。
DMMのVR動画サービスに実際に導入するには、特にデプス情報の取得と処理に課題が残るためすぐには適応は難しそうですが、将来的にはVR動画で6DoFの体験を提供することが可能になるのではないかと期待しています。

上記の発表はデモも提供しているため、Oculus Riftをお持ちの方はぜひ試してみてください。

 

続いて、パトリックと同じVR labの野秋からも、注目のセッションといくつかのポスターをご紹介させていただきます。

Manufacturing Application-Driven Foveated Near-Eye Displays

kaanaksit.com

発表者のKaan AkşitさんはNvidiaの研究者で、ご自身のウェブサイトでも刺激的な記事をいくつも書かれています。今回のセッションでは大きく見て、以下のトピックがありました。

  • 新しいHMDを制作するフローにおけるレンズ試作フローの改善
  • レンズ設計方法論
  • 完成した新しいNear Eye AR HMDの紹介

レンズ制作フローについては3Dプリンタでレンズを成形。UV接着剤と真空生成機でパッキングし、UV回転オーブンで硬化させる制作プロセスによって、100マン~500万ドル掛かる設備費用が1万5000~2万ドルで実現できるとのこと。

レンズの設計について、Near Eye AR Displayを作る際には、レンズを使って像を結ぶためのバードバス光学系と軸外光学系という2つの一般的な光学系があります。バードバス光学系のレンズを作るためにレンズが通った時の光の深度をトレーニングデータにして、機械学習的アプローチを用いて適切なレンズ形状を設計しています。


Manufacturing Application-Driven Near-Eye Displays

最後にHMDのデモを見ました。プレゼン内の動画もこちらにまとまっています。

Enchanting Your Noodles: GAN-based Real-time Food-to-Food Translation and Its Impact on Vision-induced Gustatory Manipulation


Enchanting Your Noodles: GAN-based Real-time Food-to-Food Translation

こちらは、麺を食べながら麺のリアルタイムカメラ映像をGANで料理に変換することで味覚を制御しようという試みで、実際に体験させていただきました。ご飯、ラーメン、焼きそば、チャーハンなどへの変換を体験させていただき、味の薄い料理の場合は味を薄く、味の濃い料理の場合は味を濃く感じることができました。また、実際に食べたものが柚子風味の素麺だったので、焼きそばへの変換の際に柚子の酸味を焼きそばのソースの酸味と錯覚しました。個人的にはこれからが楽しみな研究です。

A New Interactive Haptic Device for Getting Physical Contact Feeling of Virtual Objects

こちらは、DJ機材用の位置制御ができるポテンショメータを用いてペン型のデバイスを作成し、なぞった時の立体感が高い解像感でフィードバックされる面白いデバイスでした。複数使えば浮き上がる立体物をつくったり、感圧ができれば柔らかさを表現できそうで想像力をさらに掻き立てられる研究でした。

 まとめ

DMMにとっても我々にとっても初めての『IEEE VR』でした。過去の開催に目を通すと、今当たり前に利用しているHMDやCGの技術が随分と昔から研究されており、アカデミックの場におけるトレンドや課題などが商業の場にサービスとして登場するには時間がかかるということが分かります。技術開発をする際に、二次情報のみに頼っていては数歩遅れてしまうということを強く認識し、学術の場で何が起きているかに注意を向けていくことが重要だと感じました。また、DMMではこれまでこのようなアカデミックな場に参加する機会は珍しく、R&D組織として、今後は何らかの形でコミットできるようにしたいと考えています。

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