DMM.comの、一番深くておもしろいトコロ。

ユーザーが増えても増えても見通しが立たない!? 事業の転換期を迎えたDMM.make AKIBA「組織改変」のストーリーに迫る

ユーザーが増えても増えても見通しが立たない!? 事業の転換期を迎えたDMM.make AKIBA「組織改変」のストーリーに迫る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

東京・秋葉原にあるモノづくりのコワーキングスペース「DMM.make AKIBA」。

2014年にオープンし、「総額およそ5億円分の機材が、いつでも自由に利用できる」というコンセプトは当時、大きな話題となった。

オープンから6年目。最近では個人やスタートアップへの支援にとどまらず、大学や地方自治体との連携など、事業の幅を大きく広げているが、その歴史は順風満帆だった……というわけではない。

「ユーザーが増え、セミナーなどのイベントが盛んに行われている一方で、実は事業の見通しが立たず大ピンチだったんですよ」

こう話すのは .make AKIBA事業部の事業部長を務める大沼慶祐さんだ。もともとは経営企画室でM&Aや新規事業の立ち上げなどに携わっていたが、DMM.make AKIBA(以下、AKIBA)のピンチを救うため、突然呼び出されたのだという。

f:id:dmminside:20200904153457j:plain

大沼 慶祐

1992年生。慶應義塾大学経済学部卒業後、経営共創基盤(IGPI)、UUUMを経て2018年DMM.comに入社。経営企画室にてM&Aや新規事業立ち上げ支援を担当後、.make AKIBA事業部 事業部長に就任。グループ会社 Cerevo 代表取締役、DMMのCVC「DMM VENTURES」、DMMコンサルティングの責任者を兼任中。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授、川崎市「Kawasaki Deep Tech Accelerator」メンター

 

法人営業部隊もない、売り上げやコストも誰も分からない

施設が話題になり、ユーザーが増えても増えても見通しが立たない……大沼さんがAKIBAの営業支援に入ったのは2019年の春。掲げた目標は、「1年以内に事業を立て直す」というものだ。時間がない中、AKIBAの経営を分析したところ、さまざまな問題が見えてきた。

一番の問題は、「社員の誰もが『自分たちの事業が今どういった状態にあるか』分かっていなかった」ということ。月々の売り上げがどれだけあるのか、コストがどれだけかかっているのか、正確に答えられる人が誰一人としていなかったのだ。

「当時のAKIBAは、立ち上げの準備やオペレーションの整理に必死だった頃の名残があり、事業としての変換期を迎えていることに気が付きにくい状況にありましたね。」

と創業期からAKIBAを支える平林さんは当時をふり返る。

f:id:dmminside:20200904153638j:plain

平林 愛子

青山学院大学卒業後、外資アパレル企業入社。広告代理店や大手企業向けソフトウェアハウスで販売営業、開発など多岐に渡る領域を経て、2016年DMM.com入社。DMM.make AKIBAのコミュニティマネージャーとして、スタートアップと事業会社、両者の課題解決役として、マッチング支援や各種サポーター企業とのアライアンスを行う。2020年より副事業部長に就任。

 

「それまで社員は皆、ユーザーコミュニティを大きくすることを目標に動いていました。とても大事なことです。ですが、それだけでは事業として存続していくには難しい面があります。今まで築いてきたユーザーとの関係性を維持し、更なる価値を提供し続ける為には施設の存続は第一で、事業部の売り上げも重要。『このままだと立ち行かなくなる』というのは、皆何となくは分かっていたのですが、しっかりと数字で把握できていなかったこともあり、危機感を共有できていなかったんです」(大沼さん)

専属の営業がほぼいない、というのも大きな問題だった。当時のAKIBAは個人向けのサービスが中心で、法人向けのサービスはほんの一部。施設が持つ価値や可能性を、より大きなビジネスへと転換していく力が足りなかったとも言えるだろう。

 

人事と進めた「ミッション再設定」事業の立て直しに向けて、社員の意識がそろった

解決すべき問題が見えた大沼さんはまず、人事に協力を仰いだ。ビジネス面での“テコ入れ”は必要だが、それは現場との連携なしには実現しない。AKIBAの幹部人材を中心に集めて「ミッション/バリュー」を定める合宿を人事部の主導で行った。

 新たにまとまったミッションは「モノづくりに新しい道を、コトづくりで新しい価値を」。従来の「モノづくりの環境を提供する」という価値を守りながら、AKIBAが持つ新たな価値や事業を探っていくという目的を社員全員で共有できたという。

 これまではミッションが定まっていなかったこともあり、社員が何にコミットすればいいのか分からない状態だった……と、人事の岩井さんは当時を振り返る。

f:id:dmminside:20200904154150j:plain

岩井 尚紀

新卒でエン・ジャパンに入社。ITWEB業界の求人広告営業を担当する傍ら、全体の営業スキル育成PRJなどに参画。後に帝国データバンクに入社、銀行/不動産/証券/ファンド等の日本トップクラスの企業を中心に企業データベースの営業経験を経て、2019年DMM.comに入社。人事部HRBPチームとして、担当部門の組織課題解決に従事。案件ベースで人員配置、採用、評価制度導入、研修企画等のPRJに参画。


「DMMは幅広く事業を展開しているため、各事業部で評価制度を設計しており、統一されたルールはほぼありません。そのため、ミッションやバリューのような指針が定まっていないと、社員の評価基準もブレてしまいます。社員がキャリアを描いて行くうえで、当時のAKIBAは『昇降格の基準がない』という問題も抱えていました」(岩井さん)
組織が向かうべき方向性と評価を合致させる。文字で書くと当たり前のように見えるかもしれないが、実際はそう簡単な話ではない。岩井さんを中心に、現場の幹部と地道に対話を重ね、評価や表彰制度などを整えた。更には、ミッションを実現するために自ら目標設定をし、自律的に課題を解決することで評価される枠組みを導入することで、次期幹部候補が育つ仕組みが整ったという。

こうした変革に現場からの反発がなかったわけではない。時には必要に迫られ、社員のポジション変更なども余儀なくされたが、「社員へのキャリア相談を通じて、彼らがより活躍できる環境を作るなど、人事部のていねいなフォローに助けられた場面も多かった」と平林さんは話す。

法人営業組織を0から立ち上げ ビジネスを法人向けに振り切り、売り上げが2倍に

春から着任し秋ごろには組織変革の目処が立ち、いよいよ「売り上げを作る」というフェーズに入った大沼さんだったが、大きな壁が立ちはだかる。現状展開しているサービスでは、売り上げの伸びが見込めなかったのだ。

「ユーザー数が短期間で一気に伸びない限り、個人会員を対象としたサービスで売り上げを伸ばすのには限界があります。そこで、メインのサービスを法人向けへと振り切ることに決めました。途中、売り上げが落ちたとしても『DMM.make AKIBAが提供できる価値は何か』という点に立ち返ることにしました」(大沼さん)

サービスメニューの転換とともに、営業組織の強化も行った。イベント企画などを手掛けていたメンバーなどを巻き込み、専属営業の人数を確保。これまでは顧客ごとに1からカスタマイズしていた各サービスをパッケージ化し、幅広い顧客にサービスを提案しやすくするといった販売支援までを行ったという。

「組織の強化に合わせて、人事サイドでも営業や広報、デザイナーといった職種の採用を通じて支援しました。専門性の高いメンバーが揃うことで、組織の仕組みが整っていったのは大きな成果でした」(岩井さん)

 紆余曲折を経て出来上がったAKIBAの法人向けサービスが目指したのは、大企業が新規事業を考えたり、スタートアップと共創できる場を作るというもの。そのために、新規事業の検討から製品開発までのシーンに合わせたサービスをそろえた。

f:id:dmminside:20200904154600j:plain

例えば、人材育成やプロジェクト進行に関する研修プログラムの提供やハッカソン(アイデアソン)の企画。この他にも、企業や大学内でAKIBAのようなコミュニティスペース作りを進めるためのコンサルティングなど、これまでスタートアップを支援する中で得られたノウハウを生かしたものばかりだ。人的交流だけでなく、企業とベンチャーキャピタルのマッチングなど資金調達の支援も行っているという。

「オープンイノベーションに注力する大企業が増えていることもあって、スポンサーやパートナー企業の数は大きく増えました。大塚製薬様やコニカミノルタ様、LINE様など、業界や業種を問わず、さまざまな企業に参加いただいています。パートナー企業やスタートアップの成功こそが、我々のビジネスを成長させるカギです。支援を得たいスタートアップと新たなビジネスの種を探したい企業、双方のメリットを分かりやすく提示することで、AKIBAの価値が高まると考えています」(大沼さん)

さまざまな施策や、社員の努力の甲斐あり、大沼さんが支援を始めたころに比べ、単月の売り上げは約2倍にまで伸びたそうだ。

ビジネス面での成果を得た一方、プロジェクトに参加した人事についても、組織変革の成功例として一定の手応えを掴んだそうだ。

「DMM内の各事業部に対して、人事がどのように支援し、価値を出せばいいかという一つの指針ができました。今後は他の事業部とも同様の取り組みができないか、模索しているところです」(岩井さん)

f:id:dmminside:20200904154647j:plain

ビジネスとして成立させないと「コミュニティ」は育たない

 企業を巻き込むことで事業の立て直しを果たしたAKIBAだが、最近では事業の幅を地方自治体や海外にも広げようとしている。

2020年8月には広島県、加賀市、山形市などと産業誘致やイノベーションによる地方創生を目的としたエリアパートナーを締結。AKIBAの施設を職員や地場企業のサテライトオフィスとして利用できるほか、各種交流イベントやマッチングなどに参加できるという。「コロナ禍の今こそ地方との連携のチャンスだ」と大沼さんは語る。

「.make AKIBAでも企業とスタートアップで数億のお金が動くようなエコシステムができている。今は新型コロナウイルスの影響でオンライン化が進んでおり、地方にいてもコラボレーションをしやすい状況。こうした動きが地方にも広がるといいと思っています」(大沼さん)

この他にもイノベーションにつながるコワーキングスペースの成功例として、地方自治体のほかに、海外のスタートアップや大使館からも提携の提案なども受けているそうだ。

 個人向けから企業向けへと事業を拡大し、ビジネスが大きくなったことで、コミュニティも大きく広がったAKIBA。昨今広がりつつあるコミュニティビジネスの成功例として、参考になる部分は多いだろう。

f:id:dmminside:20200904154759j:plain

編集/写真:池田憲弘  取材:2020.06

 

また、大沼のDMM入社に至るまでのキャリアや入社後の経験などをインタビューした記事をコーポレートサイトでもご紹介しています。ぜひご覧ください。 

「ここには、挑戦する土壌がある」—— AKIBAの再生請負人・大沼慶祐に聞く、DMMとい…

経営コンサルタントから、事業家に転身。DMM.make AKIBA事業部長とCerevo社長を務める大沼が、挑戦の舞台にDMMを選んだ理由とは?