DMMグループの一番深くておもしろいトコロ。
カルチャー

42日で立ち上げた社員向け生成AI チャットボット「DMM.博士」。AI初体験の社員に、何を提供するべきか

DMMグループの一番深くておもしろいトコロ。

2023年6月20日に、ほぼDMMグループ全社で導入された社員向け生成AIチャットボット「DMM.博士」。Slackで、”小悪魔キャラ”のボット「博士」に話しかけると、欲しい情報を返してくれる、従業員から触れやすく身近な存在として業務支援アシスタントとなることを目指した生成AIです。 このプロジェクトが5月8日に本格始動してから、リリースまで約1カ月弱。いまや4,836名近くを支える「DMM.博士」のプロジェクトは、どのように始まったのでしょうか。 その裏側には、日頃から「技術の力で従業員体験を高めたい」と試行錯誤するインフラエンジニアの姿がありました。 プロジェクトを進めたITインフラ本部情報システム部EX開発グループの金井淳と山村晋作に、生成AIの社内活用がスピード実現した理由を語ってもらいました。

  • 金井 淳ITインフラ本部情報システム部 EX開発グループ マネージャー

    大学卒業後、SIerの研究機関に所属し技術者として基礎を構築、複数案件に携わった後、ITベンチャーへ転職、技術に軸足を置きつつ、ホスティング事業の立ち上げやクラウド開発に携わる。2017年3月にDMMへ入社。IT戦略本部にて社内のクラウド利用標準化に携わる。情報システム部 企画開発グループを経て現職。従業員の生産性最大化を目標にシステム刷新などを推進する。

  • 山村 晋作 ITインフラ本部情報システム部 EX開発グループ

    2012年、当時アルバイトとして入社したゲーム会社にてゲーム作りに没頭。ブランドの解散を機にシステム開発系の企業へ転職。以降はサーバサイドのソフトウェア開発を中心にオープンソース志向のフルスタックのエンジニアとしてLinux、ネットワークインフラ、クラウドインフラの構築・運用を手がける。2022年12月にDMMへ入社。身近な社会貢献をモットーに従業員の困りごとや会社の課題をシステムで支援出来るよう日々邁進している。趣味で古いCPUを集めたりエミュレータを書いたりしている。好きなCPUはMOS 6502。

ちょっと小悪魔な生成AIが社員の困りごとに答える「DMM.博士」

社員向けAIチャットボット「DMM.博士」とはどんなサービスですか?

金井:社内のSlackチャンネルで活用できる、生成AIによるエンタープライズサーチを視野に開発した業務支援アシスタントです。「hakase(博士)」というネーミングのキャラクターを、パブリックチャンネルやプライベートチャンネルに招待し「@hakase」とメンションして話しかけると、社員の困りごとに答えてくれます。

山村:「博士」に最初に話しかけたときに、自己紹介と利用ガイドのリンクを打ち返してくれるので、まず社員のみなさんに利用ガイドを見てもらうことから始めています。

基本的には、1テーマ1スレッドでひとつのテーマについての会話を完結してもらっています。スレッドを離れて新しくメンションすれば、会話がリセットされて新しいテーマでスレッドが始まります。とはいえ、それほど詳しい説明をすることもなく、みんな直感的に使ってくれているようです。

DMM.博士のシステム構成図
コスト管理や社内情報の取り扱いを見越してアカウント単位でのアクセス制御の仕組みを備えている。監査ログ、今後の生成AIの取り組みにおいて従業員のニーズに捉えるべく利用状況を収集。なお、分析は匿名で行っている。
1アカウントあたり1ヶ月100円の予算を設けている。今月の利用料金については利用者で確認が可能。

どのようにプロジェクトを進めていったのですか?

金井:もともとエンタープライズサーチのプロジェクトを進めていたところ、2023年の年明けから生成AIが盛り上がってきて、3月にOpenAIが規約を変えたタイミングで「生成AIを使おう」と決断しました。
4月初旬にはITインフラ本部長の須藤から承諾を得て、ゴールデンウィーク明けの5月8日からプロジェクトを本格始動。5月末には僕たちITインフラ本部情報システム部に試験導入し、6月下旬までには、DMM.com、EXNOA、GDホールディングスの従業員約4,836名に試験提供が完了しています。

きっかけは「従業員体験(EX)をより良くしたい」

ものすごいスピード感ですね。そもそも、なぜこのサービスを提供しようと思ったのでしょう。

金井:もともと私たちEX開発グループは、技術の力でEmpolyee Experience(EX/従業員体験)を改善していくことをミッションとしています。
これまでも、オフィスの来客受付をiPad端末だけでできるWebアプリケーションを開発して受付スタッフがいなくても運用できる仕組みをつくったり、社員向け1on1スケジュール管理ツール「Workboon」を提供したりと、従業員体験の改善につながる開発を行ってきました。

以前から、従業員体験を高めるために様々な取り組みをされてきたんですね。

金井:はい、日ごろからITインフラ本部長の須藤(吉公)と「どうすれば、DMMで働くみんなのEXや業務体験がより良くなるだろう」とディスカッションしていて。その中で出てきたのが「DMM.博士」のベースとなる企業内検索(エンタープライズサーチ)のアイデアだったんです。

日々の仕事で困っていることを、一発で検索できたら業務の効率化がはかれて、みんな助かるはず。当時はAmazon KendraやAzure Cognitive Searchで、試験運用・検証をしていました。

エンタープライズサーチのプロジェクトに「生成AIを使うぞ」と決断した一番のきっかけは何だったんですか。

金井:2023年3月にOpenAIの規約が変わったことです。公開された規約をすべて読み込み、オープンソースのLLMや(OpenAIに出資しているMicrosoftの)Azureの動きも確認しました。
その結果、セキュリティ面のリスクを考慮しても、生成AIを使った方が自然言語処理の部分で格段にプロジェクトが進めやすくなると判断。「思ってもみなかったレベルの業務改善提案ができるぞ」と確信し、Azure OpenAIを使うことにしました。

ChatGPTではなく、Azure OpenAIを採用したのはなぜでしょう。

金井:セキュリティ面で企業ユースにはあまり向いていないということがわかったからです。
3月にChatGPTの規約が変わった際、じっくり規約を読み込んでいくと「OpenAIのサービス改善には活用される」「プロンプトに入力されたデータは、30日間OpenAIの監視下に置かれる」と書いてあって、これは厳しいなと。
実際に入力したデータが学習されることはないという話だったんですが、それを鵜呑みせず、やはり規約は隅々まで読まなきゃわからないと実感しましたね。

多くの社員にAI体験を提供し、使い慣れてもらいたい

3月に「生成AIを使うぞ」と決めてから、5月8日にプロジェクトが本格始動するまで約2カ月です。社内の決裁はすぐおりたんですか。

金井:日常的にITインフラ本部長の須藤と会話していたため、とくに稟議にかけることなく「リスクやコストはすべて自分が責任を持つから、思い切ってこのプロジェクトを進めてくれ」と僕たちのチームに任せてくれました。
早い段階で社員が生成AIに触れることは、企業の先進性のために必要なことだ」と判断してくれたようです。それが4月初旬のことでした。

社員の「やりたい、やるべきだ」という思いがここまでスピーディに実現するケースは多いんですか?

金井:さすがに、すべてのケースで稟議書なしに実現することはありません(笑)。私たちも普段は、稟議書をつくって承認を得てプロジェクトを進めています。ただ、当社の経営陣は「これは重要だ」と判断したときの意思決定がとても早いですね。
今回の場合、須藤も僕も社内で生成AIへの期待と不安の両方が、日増しに大きくなっていることを感じていました。ならば怖がって距離を取るより、使いこなして慣れ親しむことの方が大切。
「すぐ業務改善につなげろ」でも「費用対効果を出せ」でもなく、生成AIを多くの社員が使えるようにし、身近に感じてもらえる環境をつくってほしい、と言われました。

実際の開発を担当した山村さんは、Slackでサービスを提供するにあたって何を大切にしましたか?

山村:金井さんがSlackでデモアプリケーションをつくってくれていたので、僕はそれをベースに開発を進めていきました。コードに落とし込むのはそれほど大変ではなかったですね。コーディングよりも、システムプロンプトの指示を思ったとおりの挙動にすることの方が、よほど大変だったと思います。
大切にしたのは、プロジェクトのコンセプトを決めること。このSlackボットを利用するのは、エンジニアのみならず、デザイナーや営業、広報など非エンジニアも含めて多様なロールの社員です。ボットを使う際に、生成AIとはじめて会話する人もいるかも知れないと想定しました。
エンタープライズサーチで業務を効率化することも大切でしたが、生成AIを活用する時点でこのプロジェクトの目的は「社員に生成AIを使いこなし、より身近に感じてもらうこと」とに変わっていました。そこで、プロジェクトのコンセプトを「AI体験を従業員に提供すること」と置きました。

とくにこだわった部分は?

山村:チャットボットのキャラ付けです。社内のデザイナーにコンセプトを伝えて、仮想のキャラをつくってもらいました。今回はじめて生成AIと対峙する社員に、AIを冷たく無機質なものだと感じてほしくない。そこで、人格を感じられるキャラクターをつくった方がいいと考えたんです。キャラ設定は「ちょっぴり小悪魔なAIアシスタント」としました。

DMM.博士のビジュアル

ビジュアル面では社内のデザイナーを巻き込み、画像生成AI「Stable Diffusion」でイラストを生成してもらいました。そのデザイナーは、当然イラストレーターやアーティストではなかったので「白衣を着ていて黒髪で、小悪魔サイエンティストです」というキャラ設定(プロンプト)だけ伝えて、その結果生成された13パターンくらいのビジュアルの中から、最もピンときたキャラに直感で決めました。

実際リリースしてみて、どのような使い方をする人がいましたか?

金井:エンジニアはさすがに使い慣れている人も多くて、中には「葉加瀬太郎として振る舞いなさい」と、AIのキャラ設定そのものを変えようとする人もいました(笑)。
他には「Azureのこのサービスの使い方を教えて」とか「このコードで合ってる?」といった技術について聞くエンジニアが多かったですね。

山村:「ある分野において、革新的なサービスのつくり方を教えてください」と新規プロダクトのアイデア設計について聞く人もいれば、非エンジニア社員の中には、「個人目標を考えてください」とか「小説を書いてください」なんて、指示している人もいましたよ。

社員発の自律的なプロジェクトがムーブメントを起こした

お2人は、今回のプロジェクトからどんな学びがありましたか。

金井:相反する2つの感情を両立させる難しさを感じました。今後いろんな会社が生成AIに力を入れてくるはずだから、絶対に乗り遅れたくない。その一方で、リスクを最小限にする必要がある。あるいは社員には遠慮せずどんどん「DMM.博士」を使ってほしい一方で、OpenAIは従量課金制なので使いすぎた場合に通知をする必要もある。そんなふうに、熱量と冷静さのバランスを保つのは大変だなと思いました。
あらためて振り返ると、ひとりで始めたプロジェクトでしたが、小さな成果から大きなムーブメントにすることができたと思っています。上司のサポートや一緒にプロジェクトを進めてくれた山村さんのおかげですね。

山村:当初、セキュリティや安全性を担保するのは大変でしたが、役員陣が後押しする社内でも注目度の高い取り組みだったので、限られた時間の中で精度を上げることができたのは、本当に良かったと思っています。これだけ裁量も期待も大きいプロジェクトに関われて、自発的な動きからプロダクトを生み出せたことは自信につながりました。

今後、生成AIをどう活用していきたいですか?

金井:GPT-4の実装を視野に入れるなど、社員のみなさんが飽きないよう継続的にアップデートしていきたいと思っています。多くの社員にたくさん使ってもらって、社員みんなに生成AIの多様な使い方を聞いていきたいですね。

山村:Azure OpenAIから近日中のリリースについてアナウンスがあった「Function Calling(AIからコードを呼び出せる機能)」を用いて、生成AIの役割を拡張していきたいですね。社員のみなさんは、AIの得意不得意を理解し「付き合い方」を習得してほしい。そして、業務への活用方法を見出してほしいですね。

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