DMM.comは2018年10月、テックカンパニー化を推進すべく「DMM Tech Vision」(以下、Tech Vision)を打ち出しました。連載「DMM Tech Visionの現在地」と題して、DMM Tech Visionを実現するための部署を紹介。テックカンパニー化の現在地を探っていきます。
第6回は、2019年に立ち上がった新組織・ITインフラ本部・SRE部の近藤英憲が登場。アジリティを生み出す技術基盤、そして、事業推進装置として存在感を発揮する同部署のミッションについて話を聞きました。
ゲーム少年が、DMMに入社するまで
まずは、DMM.comのSRE部はどういった部門なのかお伺いします。
近藤:そもそもSRE(Site Reliability Engineering)というのは、Webサイトやサービスの信頼性向上に向けた取り組みを行い、価値の向上を進める考え方です。
DMM.comでSRE部が設立されたのは、これまでオンプレミスで運用していたサービスのクラウド移行を促進するため。私が入社する際は、まだSRE部が立ち上がっておらず、社内から集められたエンジニアがチームを結成し、クラウド移行を行なっているフェーズでした。
そこで私が、いずれ大きくなっていくであろうSRE部のマネージャー候補として採用された形です。現在SRE部は、インフラ面からあらゆるサポートを行う場所として活動してます。
SRE部のマネージャーに抜擢された近藤さんはこれまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのか気になります。
近藤:子どもの頃から「ゲームプログラマーになる」という夢があったので、その夢を実現しようと、地元の工業高校に入学しました。卒業後はゲームプログラマーになるための専門学校でプログラムを学び、ファーストキャリアでゲーム会社に就職。念願だった夢を、最短ルートで叶えることができました。
しかし、なかなか自分が開発に携わったタイトルが世の中に出なかったんです。「ゲームプログラマーになる」という夢は叶ったものの、誰も自分のつくったゲームで遊んでいないという現実にやきもきし、20代は転職を繰り返していました。
転機になったのは、当時誰もが憧れていたゲーム会社・ナムコに入社するチャンスがあったこと。アルバイトとしての求人でしたが、凄腕のエンジニアが揃っていて、自分の大好きなゲームを開発した会社です。こんなチャンスは二度とないだろうと、正社員のメリットを捨てて飛び込みました。
アルバイトとしての入社ということですが、雇用が守られていないことへの不安はなかったんでしょうか。
近藤:もちろん不安もありましたが、働いて身につけられる技術や経験を考えれば、そんなことは気にも留めないくらいに恵まれた環境だったと思います。「頑張っていれば、なんとかなる」という意識で、とにかくがむしゃらでした。
入社して1年が経った頃には正社員のオファーをいただけましたし、大好きなレースゲームの開発チームに参加させてもらったり、『PlayStation 3』のローンチタイトルのゲーム開発をしたり、ナムコにはたくさん夢を叶えてもらいましたね。
近藤さんにとってナムコでのゲーム開発は、まさに昔の自分に自慢したい経験になったんですね。その後も継続してナムコでキャリアを積まれたのでしょうか。
近藤:ナムコでは6年ほど凄腕のエンジニアたちと働けたことで、達成感を得ることができました。そのタイミングで、スクウェア・エニックスに転職しています。もともスクエニのゲームが大好きで、いつかは『ファイナルファンタジー』の開発に携わって見たかったんです。
ただ、思ったように進まないのがキャリアというもの。スクエニに転職して『ファイナルファンタジーXIV』の開発に携わることができたものの、ユーザーからの評判が悪かったこともあり、つくり直しすことになったんです。『新生エオルゼア』として再度リリースされ、評判を取り戻すことはできましたが、長く同じプロジェクトで開発をしてきたのでモチベーションが維持できなくなってしまいました。次第に自分のキャリアにも悩むようになり、転職を決意。コンソールゲームを追い抜く速度で成長していたソーシャルゲームの世界に飛び込みました。
しかしその転職も、思い描いたキャリアにはつながりませんでした。ソーシャルゲームがやりたくて大手ソーシャルゲーム企業に転職したものの一時的に売上が落ち、キャリアへの不安から多角経営をしている別のソーシャルゲーム企業にキャリアチェンジ。しかし、ポジションのミスマッチで再び転職をしました。短期転職は、仕事の内容を入社前にすり合わせてなかったことが双方の反省です。これまでのキャリアを振り返ると、残念ながら「迷走」という言葉がしっくりきます。
SRE部は、事業とともに
紆余曲折のキャリアを踏まえ、DMM.comに入社した理由をお聞かせください。
近藤:次のキャリアを考える上で、一度自分の過去を整理してみました。自分を端的な言葉で表現するなら「履歴書一枚に収まらないくらい、何でもやってきたエンジニア」です。
そんな自分の経験が活きる場所を考えたところ、多種多様な事業を展開するDMM.comが候補に挙がりました。
面接でCTOとお話をした際に「SREチームがクラウド移行を促進している」と聞き、オンプレとクラウド、両方に携わってきた自分のスキルが十分に活かせるイメージが湧きました。また、クラウド移行を促進するだけでなく、「事業促進に貢献することはなんでもやる」という構想に共感できたことも、入社の後押しになりました。
現在SRE部は、どのような活動をしているのでしょうか。
近藤:私が部長に就任して以降は、これまで手作業で動かされていたシステムのCI/CD、つまり自動化や、サービスを安定稼働させるための改善活動を行っています。ここ最近では、モニタリング環境の強化などにも力を入れていますね。
昔から動いているシステムなので、まだまだオンプレで運用されているものも少なくなかった。それらを、クラウドに移行したり自動化していくことで、快適にサービスの開発や改善をしていける環境を整えています。
クラウド移行した直後は不具合も起きやすいので、入社後まもなくは、サービスの品質を改善するための提案や実装を積極的に行なっていましたね。
インフラ面での不具合を直すだけでなく、さらなる改善のために事業部に伴走する部署、というイメージでしょうか。
近藤:おっしゃる通りです。私たちの業務内容はインフラ面でのサポートに留まりません。なぜなら、「サービスにプラスの効果を生み出すことであれば、可能な限り引き受ける」というのが私たちのミッションだからです。
入社後はCTOがクラウド移行を進めていた電子書籍サービスの運用を引き継ぎ、一つの結果を出すことができました。その結果、会社全体でSRE部の認知度が上がり、困りごとが発生した際は、真っ先に指名してもらえるようになっています。
SRE部の業務は、Tech Visionの推進にどういった形で貢献しているのでしょうか。
近藤:組織のアジリティを高めることができると思っています。クラウド移行はもちろんですが、テストやDeployを自動化するといったアクションを実施することで、開発メンバーが失敗を恐れず、スピード感を持って業務に当たれる環境づくりに貢献できているのではないでしょうか。
目的はあくまでも事業推進であって、インフラ面のサポートは手段でしかないということでしょうか。
近藤:おっしゃる通りです。メンバーには、「事業部の困りごとを拾い上げ、一緒になって改善していこう」と呼びかけています。
Tech Visionを推進していく上で、今後、SRE部が乗り越えるべき壁はありますか。
近藤:SREというのは、ウェブアプリケーションの開発者とインフラエンジニアの間にあった分断を埋めるためのものとしてつくられた概念だと思っています。DMM.comでも、組織間の壁をなくし、一緒に事業を推進していく意識を、より高めていきたいと思っています。
失敗に価値を見出すチームづくり
これまで多様な経験をされてきた近藤さんから見る、DMM.comのSRE部の魅力とは、どのようなものなのでしょうか。
近藤:裁量の大きさは、一つの魅力だと思います。部署の方針として、メンバーが「やりたい」と提案してくれることには、投資を惜しまないようにしています
熱意を感じたら迷わず背中を押しますし、もし失敗したとしても、原因を分析して共有してもらえれば、それでOK。会社の資産になる挑戦は、大歓迎です。
そうした積極的なチーム運営により、部署の成果が上がってきていると感じるエピソードはありますか。
近藤:小さな成果ではありますが、最近嬉しいことがありました。会社で利用しているエンゲージメントシステムがあり、私が部長になってから少しずつスコアがよくなっていっているんです。
一から立ち上げた組織ではありますが、私が描いているビジョンをメンバーが理解し、賛同してもらえるようになってきたんだと思います。
メンバーの「やりたいこと」を尊重し、全力で応援したいという近藤さんの想いは、どこからくるのでしょうか。
近藤:DMM.comが掲げるTech Visionのうち、「AGILITY」に最も共感しているからです。挑戦し、失敗を許容できる環境があって、はじめて“最適解”にたどり着けると信じています。
SRE部は、事業促進のためになることであれば、メンバーのやりたいことをチーム全体で応援します。失敗を恐れずにチャレンジしたいという人は、ぜひ私たちと一緒に、技術の力で事業を推進するチームをつくりましょう。
構成:古川 遥 編集:オバラ ミツフミ 写真:つるたま