こんにちは。DMM.comラボ UXデザイナーの源です。
2018年4月から会社の仕事と並行して、成安造形大学情報デザイン領域の客員准教授を務めることになりました。そこで今回は、情報デザイン教育を専門とされている専修大学の上平教授をお招きし、「情報デザイン」について理解を深めるきっかけとしてお話を伺う機会を設けました。
上平崇仁
専修大学ネットワーク情報学部教授。コミュニケーションデザイン研究室主宰。
グラフィックデザイナー、東京工芸大芸術学部助手を経て2004年より専修大学で教鞭を取る。2015-16年には、IT University of Copenhagen(デンマーク)にてインタラクションデザインリサーチグループ客員研究員を務める。主な活動領域は情報デザイン、CoDesign(協働のデザイン)。
源 賢司
DMM.comラボ UXデザイナー。HCD-Net認定・人間中心設計専門家。
開発の現場へUXデザインを導入し、既存サービスの改善から新規サービスの立ち上げまで、様々な現場で実務対応をする。2018年度より成安造形大学情報デザイン領域の客員准教授に就任 。
情報をデザインするってどういうこと?
イトマキ
進行役のDMMのイトマキです。源さんの専任分野になる『情報デザイン』について、専修大学で情報デザインの様々な取り組みをされている上平先生をお招きして、お話を聞いていきます。
早速ですが『情報デザイン』とはどんなものでしょうか? 「デザイン」はよく聞きますが、「情報をデザインって、どういうことをするの?」と思われる方は多いのではないでしょうか。
上平
情報デザインをひと言で説明するのは難しいのですが、言葉が生まれた経緯は説明できます。
90年代ぐらいからコンピュータが一般の人々の生活に入って来るようになり、webサイトをはじめ、いろんな新しいメディアが生まれました。その中で『プロダクト』や『グラフィック』という言葉では扱えない、新しいデザイン領域が注目されるようになりました。当時はまだITも草創期で未分化だったし、一部の人以外みんなよく分かっていなかったので、それを全部ひっくるめて『情報』のデザインとして扱ったわけです。そのため、何を指すのか解釈が曖昧になっているという事情があります。
源
英語では『data(データ)』と『information(インフォメーション)』と分けて表現されるところが、日本語ではどちらも『情報』という言葉に置き換えられているところも、曖昧さに関係しているかもしれません。 『データ』は一見意味不明な文字や数字がバーっと羅列しているようなイメージで、『インフォメーション』が”耳寄り情報”のような便利なイメージのもの。『データ』を上手く使って『インフォメーション』を作り出すのが情報デザインと言えるのではないでしょうか。
上平
その「上手く使う」が肝ですね。私がよく例に挙げるのが、バスの時刻表です。バスに乗る人にとっては意味のある情報でも、乗らない人にとっては意味のない数字の羅列でしかない。情報の価値は利用文脈(コンテクスト)によって成り立つことを念頭に置いて検討しないと「上手く」いきません。
イトマキ
どんな人の課題やニーズを解決するために、どんな情報が必要なのかを踏まえて考えることが情報デザインと言えそうですね。
上平
そうそう。コンテクストを抜きにして情報が役立つかどうかを語ることはできないし、それを考えるのが情報デザインの一番大切なことなんです。
情報デザインのトレーニングとは?
イトマキ
情報デザインに取り組むために、デザイン力の鍛え方やスキルの磨き方にはどんな方法がありますか?
源
上平先生がブログで公開されている「カードソーティングゲーム」には、情報デザインのエッセンスが詰まっているので、とても勉強になりますよ。例えば、犬を分類する切り口として、大型犬/中型犬/小型犬 という「大きさでの分類」があります。他にも、出身地や色、あるいは癒し効果に至るまで、いろんな分類が考えられます。そうすることで、多様な関係性を発見したり、新たな価値を見いだしていけるようになりますね。こういったアプローチが自然にできるように工夫されている教材です。
普段から当然と思っているモノの分け方や関係性について、「他の捉え方はないのか?」と考えることは、情報デザインのトレーニングになります。
イトマキ
そう言えば、つい最近の源さんの仕事でも情報の分類に取り組んでいらっしゃいましたね。社内情報をまとめるポータルサイトで扱う情報の項目・種類が多いため、必要な情報を探しづらい状態を改善するプロジェクトと聞きました。
源
その時は普段そのサイトを利用している社員自身に、掲載されている情報を分類してもらいました。「どうしてその分類にしたのですか?」と、その分類の意味を質問しながら関係性を明らかにして整理することで、情報構造の改善に活かしました。
イトマキ
なるほど! 情報同士の関係性を見直すことで、情報のカテゴリーを改善したり、関連する情報を参照しやすくしたり、具体的な改善アクションにつなげていけそうです。
上平
いま源さんが言ったようなことは、関係者全員でできると理想的ですね。
源
そうですね、情報デザインはデザイナーの仕事と限定するものではないと思います。現在多くの開発現場では、自身の職能を活かしつつもそれにとらわれない働き方が求められるようになっています。様々なスキル・専門性を持つメンバーによるチーム内で、情報デザインはメンバーの共通言語や共通の作法として機能すると考えています。
情報デザインは身近なものとなるのか?
イトマキ
少しずつ徐々に情報デザインの重要性や意義、仕事での活かしどころが分かってきました。 ところで、先生のブログで「2020年から高校生へ授業内で情報デザイン要素が盛り込まれる」という記事も拝見しましたが、今後情報デザインは私たちにとって身近なものになるのでしょうか。
上平
2020年の学習指導要領改訂で、多くの部分が書き換わろうとしています。 「10年に一度しかつくれない機会なので、これからの社会のあり方や働き方についてキチンと対応していかなければならない」と、文部科学省の方のお話にもありました。
今回の改訂の大きなポイントとして「論理的思考力を身につける学習」「実生活での問題を計測・プログラミングで解決する学習」などを小学校から段階的に学んでいき、問題の明確化や解決方法を科学的な知として体系化していくことが目指されています。
課題解決のための情報の取り扱い、つまり情報デザインが学生にとって重要な項目として認知されてきた顕著な実例です。
源
産業における日本の立場が変わってきましたよね。これまでよりもクリエイティブな働きが求められるようになってきます。今後、決まったことだけをやる単純労働はAIに取って代わられる。じゃあそこで、もっと高度な仕事をしなければならないとなった時に、課題解決や、そもそもの課題を発見する力が大切になってくる。これはエンジニアやデザイナーになる人だけではなくて、ケーキ屋さんでも美容師でも、どんな職業の人でも持っておいて損のないスキルになってくるはずです。
イトマキ
情報デザインを学ぶことで、課題発見のスキルも磨かれていくということですね。
個人的に、課題解決を考えるよりも、生活する人々の課題やニーズを発見することのほうがさらに難しいと感じているのですが、いかがでしょうか……?
源
そうですね、現代は課題やニーズを見つけることが少し難しい時代になってきています。昔は、暑い部屋で過ごしたくないとか、冷めたご飯を食べたくないとか、満たされていない原始的なニーズがいっぱいあって、解決する余地が豊富にありました。しかし今では、単純なニーズはほとんど埋められていて、ニーズをさらに深掘りするか、まだ満たされていないニッチなニーズを見つけ出すかしかなくなっています。
上平
情報化社会の現代ならではの課題やニーズも数多く生まれていますよ。例えばヨーロッパではパーソナルナレッジマネジメントという考え方が注目されています。
私たちは一生分の個人的情報や知識を管理していく宿命にあるんですよ。今では多くの人々がSNSなどの情報サービスを使いこなすようになった反面、自分の情報が散らばってしまっている。そして、散らばった情報を整理したくても、場所が多岐に渡り過ぎてどこにあるのかの把握すら難しい状況にある。こういった現代ならではの状況に即した課題やニーズも増えてきています。
このような複雑な課題やニーズに対応する時こそ、もとになる課題の発見、解決が必要です。そこで活用できるのが、情報デザインの「分解する力」と「再構成する力」ですね。
源
上平先生がおっしゃる分解と再構成は『データ化』と『インフォメーション化』を指していますが、それに加えて「正確に伝えること」も情報デザインにとって重要だと思います。
情報の分解と再構成で生まれる「新しい価値」をどのように利用者に届けるか、伝える方法を考えることも情報デザインの領域です。『インフォメーション』を誤解なく効率的に伝えることも情報デザインの役割なんですよね。デザイナーが『インフォメーション』の価値を十分に理解しないと、優れたインターフェイスを設計するのは難しい。
上平
そうなってくると、デザイナーが一人で何から何までをカバーするのは難しくなってくるよね。さっき源さんが言っていたように、チームとしてメンバーが関わり合っていくスタイルが良いんだろうね。
源
そう思います。しかし、私たちのようにデザインの対象がサービスであれば、ターゲットユーザーを切り取ってそこに最適化するものを作っていけますが、先生が取り組んでいらっしゃるような社会全体に対する働きかけの場合、もっと広範囲をカバーすることが求められますよね?
上平
そうですね、社会の課題に対応する場合は、刻々と流れていく状況変化を意識しなければいけません。ある情報も次の期間には意味が変わってしまう可能性がある。100日かかって変わる課題もあれば、1日で変わってしまう課題もある。だからこそ、課題のスタート時の条件で止まるのではなく、深く柔軟に考えるようにしています。
今まで情報デザインのプロセスをいち早く展開してきたのはサービス開発の現場だった。これからはそういった様々な手法を社会にどんどん還元していくフェーズになるんじゃないかな。
「分解・再構築・伝達」の背景にあるものとは
イトマキ
現在の複雑な課題に立ち向かうためにはデザイナーだけが情報デザインをするのではなく、みんなで情報デザインに取り組むことが重要。そのためには情報デザインで学ぶ「分解・再構築・伝達」の3つはぜひ押さえておきたいスキルセットでありマインドセットなんですね。
上平
デザインすること全般に言えることですが、一貫した『態度』も大切です。僕が学生に常々言っているのは、時間には限りがあるということ。そして、今は様々なことに時間を使える時代だからこそ、自分の力の使いどころを真剣に考えるべきだということです。そこにどう向き合っているかは、その人の姿を通して他の人にも伝播します。それが、私の言う態度です。そのデザインは何のために行うのか。真摯な考察や学びなくして、表面上のスキルだけでは情報デザインの真の力は養えません。
そういった部分も含めて、源さんがこれから情報デザインの授業をどんなふうに行っていくのか、興味がありますね。
源
私としては、まず自分の中に強いビジョンを持てるようになってほしいですね。市場に問うことも含めて今は検証手段が豊富になってきていて、自分で決断しなくても判断を下すための仕組みがいっぱいできちゃっている。でも、そういう状況でもまずは自分自身で「これは絶対にみんなが困っている」「このやり方は必ず役に立つ!」といった自分だけの思いは持っていてほしいんです。検証するからいいやじゃなくて、自分がそれをやりたい理由をきちんと持てるようになってほしいですね。
情報デザインに対する取り組みから、自分なりの発見をして、自身で納得のいく意見やビジョンを軸にしていってほしいと思っています。
上平
そこは大事ですよね。情報デザインは見た目を作ることだけではないですからね。表現することが好きな学生たちに対してはどのように授業で伝えたいですか?
源
将来制作の現場に入ると、チームの一員として働いたり、異なる職種の人と関わりながら働く機会が増えていきます。その時、デザインの制作スキルだけでは限界がありますが、そこで自身のスキルを活かすため、あるいは広い領域で周囲と話し合うために必要となるのが情報デザインだと思っています。今の時代は、デザインに関するシステムやメソッドが整備されてきて、デザイナー個人にしかできないことは一見少なくなってきているように思えます。でも、デザイナーだからこそ発揮できる力があって、その範囲は視覚表現だけにとどまらないということをしっかり伝えようと思っています。
イトマキ
源さん、上平先生、今日は有意義なお話をありがとうございました。お二人のお話で「情報デザイン」のアウトラインが理解できて、時代の潮流としてその必要性が増していることも分かりました。この春から成安造形大学で情報デザインの授業を受講する学生の皆さん、源客員准教授のもとでぜひ頑張ってください!