主人公が美術に目覚めて青春を捧げる物語『ブルーピリオド』は、講談社「アフタヌーン」で連載中の漫画。2021年10月からアニメの放送がスタートし、その制作は「DMM pictures」が手掛けています。
作り手の並々ならぬこだわりが詰め込まれた本作の魅力をお伝えすべく、制作側のサイドストーリーを何回かの記事にわけて紹介します。
第一弾は、主人公の矢口八虎を演じる声優の峯田大夢さんと、本作のプロデューサーで当社アニメーション事業部所属の松本拓也との対談。実は2人は、10年来の友人のようです。
先入観なく「最適な声優」を選ぶため、友人であることは伏せて選考
ーーお二人が実は、昔からの友人だったと聞いて驚きました!
松本:そうなんですよ(笑)。おそらく出会ってから10年くらいかな?
峯田:そうですね。僕が15~16歳の時、山形から出てきてすぐに出会ってますから。そこからちょこちょこ、ご飯に行ったりしてます。
お互い、アニメに関わる仕事に就くとは思ってなかったんですよ。まつたくさん(松本拓也のニックネーム)がDMMでプロデュースの仕事をしていることは知っていたんですが、まさかアニメ部門だったとは。だって、アニメには興味ない人だったでしょ(笑)。
松本:確かに(笑)。僕も大夢が声優の道に進むと知ったのは、今の仕事に就いてから。事務所のマネージャーさんがごあいさつに来てくれたとき、所属タレントの一覧を見たら大夢の名前があって驚きましたよ。
ーーアニメ『ブルーピリオド』の主人公に峯田大夢さんが決まったのは、友人だからではないですよね?
松本:僕は基本的にキャスティングへの口出しはせず、監督や原作者の希望を汲むことを大切にしています。
今回、八虎役を決めるオーディションの回数がすごく多かったんですけど、大夢が残っていくたびに「おぉ!」って驚いてました。最終審査は僕の方がドキドキしていたかもしれません(笑)。
最終的に2人のうちどちらかを選ぶことになって、アニメの両監督(※舛成孝二 総監督、浅野勝也 監督)と原作者の山口つばさ先生が「峯田くんにしましょう!」と言ったときは素直にうれしかったですね。
ーー最終審査で峯田さんが決まるまで、知り合いだということは伏せていたということですね?
松本:変なバイアスを与えることは避けたかったので、キャストが決まるまでは何も言わずにいました。
峯田:僕はすごく疑心暗鬼でしたけどね、オーディションの2~3次くらいまで。「知り合いがいるから残っているのでは?」「いやいや、そんなことないよな」という感じで。実は今でもちょっと疑ってます(笑)。
松本:ここで改めて声を大にして言いますよ。僕は何も口出ししていません!
峯田:安心しました(笑)。
ーーアニメ『ブルーピリオド』で一緒に仕事をすると決まって、どう感じました?
峯田:どう立ち振る舞えばいいか難しいな…という気持ちはありました。友だちではありますけど、仕事ではプロデューサーと演者の構図。難しい部分があったとはいえ、一緒に仕事ができるのは率直に嬉しかったですね。
松本:そうね。何なら僕の方が喜んでいたかもしれない。
制作チームの要求に応えるうちに、「自分とキャラクターが一体化」
ーー主役に決まって、何か準備をしたことはありますか? 峯田さんはアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』の主人公を演じる際、キャラクターを理解するためにボクシングをしたと聞いてます。『ブルーピリオド』で八虎を演じる際もそういう役作りをしたのかと思いまして。
峯田:ざっくりとですが、絵は描きました。それと作中(※アニメ第2話)で描かれている美術部の夏休みの課題のひとつ「1日1枚スマホで写真を撮る」もやりましたね。
松本:僕もやりました(笑)。いちばん気軽にできるけど、いちばん奥が深いかもしれない……
峯田:構図の切り取り方、つまり、メインとなる対象物を写真の中にどう入れ込むか、がすごく難しいんですよね。でもそのおかげで、写真の撮り方や日常にあふれているモノの見え方が変わりました。最近は、ビルのひとつつひとつの骨組み、電柱や電線、線路などがカッコいと思い始めてます(笑)。
役作りの話に戻すと、自分がこれまで経験してきた成功や失敗から得た喜び、葛藤、逡巡などを記憶の引き出しから抜き取って、八虎の感情と自分の感情を照らし合わせるような作業をしていました。
そんな作業をしていた影響か、僕がいうのもおこがましいのですが、だんだん役を演じていると思えなくなってきました。もともと八虎とは共通点が多いなとは感じていましたが、アフレコをしたという感覚がないほど、八虎の人生を生きたというか、八虎という人物と自分との境界が曖昧になっていくような感覚でセリフを発していました。
ーー松本さんもアフレコに立ち会われていたそうですが、そんな峯田さんは声優としてどんな印象でしたか?
松本:すごく難しいことをしているなと思いました。というのも、監督や音響チームは素のままで役を演じてほしいと考えていて、「あまり作り込まないように」と言われていたんです。ハードルが高い要望の中、彼なりに考えて演じていましたし、上手くやれていたと思います。
峯田:対策や準備はするんですが、収録が始まったら全部いったん忘れて、その場その場でお芝居をするように心掛けていましたね。
毎回アフレコは試験を受けているような感覚でした。終わったタイミングで、音響監督の菊田(浩巳)さんから、「ここはもうちょっとこうするといい感じかもね~」と言われるんですよ。
松本:菊田さんらしい言い方だね。ヒントはあげるけど答えは自分で出してね、という人だから。
峯田:まるで『ブルーピリオド』の佐伯(昌子)先生のような方なんですよね。菊田さんから言われたことをいったん咀嚼しながらも、本番では意識しないよう自然体で演じていく。その繰り返しでした。
体も心も削りながらその時しか出せない心のままの表現をしていたので、同じことをしろと言われても今はもう無理です(笑)。
人間のさまざまな面を描いているからこそ誰もが共感できる作品を「一切の妥協なく」アニメ化
ーー改めて、原作漫画の『ブルーピリオド』はどのような作品だと思いますか?
峯田:人間のキレイなところも汚いところも余すことなく描かれている作品だと思います。画家の(アンリ・ド・)トゥールーズ=ロートレックの名言で「人間は醜い、されど人生は美しい」という言葉がまさに『ブルーピリオド』のことを表していると思ってます。
好きなことへ向き合い続けるのはすごく大変だけれど、後ずさりせず一歩でも踏み出すことで、自分の人生が見えてくる。僕にとっては勇気をもらえる作品であり、心を奮い立たせてくれる作品です。
松本:誰もがどこかしらで共感できる作品だと思っています。モデル時代に縁のあった渋谷が、八虎にとっても友人と過ごした縁のある場所として描かれているので、『ブルーピリオド』を読むとモデル仲間だった大夢の顔が思い浮かぶんですよ(笑)。「同じようなことがあったなぁ…」と思い出させてくれて、気持ちを再認識できる作品ですね。
ーーでは、アニメ版ならではの魅力は何でしょう?
峯田:絵画、映像、音楽、劇伴、声。原作とはまた違ったアニメならではの色がついていると思います。原作を見てくださるみなさんそれぞれに響いたシチュエーション、響いた言葉があって、それに加えこのアニメでは響く音楽、響くセリフが増えています。絵のことだけでなく、すべてのことに共通する考え方や道筋を教えてくれるのではないでしょうか。
たくさんの人達の才能が集まったこの作品すべてが魅力の塊だと思います。僕自身、放送を見るのが楽しみです!
松本:セリフに声がつくことで原作以上に響くこともあるはずです。原作ファンの方も改めてアニメで物語の始まりから見ていただき、好きなキャラクターとか演出の方法とか、それぞれの視点でアニメを楽しんでほしいと思います。
100人いたら100通りのアニメ化のイメージがあると思うんです。それを網羅することは不可能ですが、われわれができることは全て出し切ったと思ってます。たとえば、出てくる絵画も実物を全部集め、データ化してアニメに落とし込んでます。監督たちもかなり細かいところまで演出を見ていて、作り手一同、誰も妥協していない作品と自負してます。
制作サイドストーリー②へ続きます↓
アニメ『ブルーピリオド』制作サイドストーリー②:好きな作品だからこそ、生まれた「葛藤」や「変化」
※アニメ『ブルーピリオド』の詳細は公式サイトをご参考に。
企画/常見真希 構成・編集/平 格彦 取材・執筆/阿部裕華 撮影/高山潤也