DMM.comの50を超える事業部が、各自に行っている人材開発に焦点を当てる連載シリーズ「キャリア開発のツボ」。育成の課題や進展をリアルにお届けしていきます。
今回フォーカスしたのは、DMM.com初となる社内兼務公募制度利用者・石井和馬さんです。新卒1年目から事業部の開発リーダーを務めた後、「キャリアの幅を広げたい」と兼務を希望。現在は兼務先へと異動し、“社内転職”を実現しています。
兼務を実施するにあたり、どのようなフォローアップがあったのか。兼務のリアルとは。——所属先のAQUIZ事業部の森田龍太郎さん、兼務先の石垣雅人さんを交え、鼎談形式でお届けします。
「なんでもやれる」が入社理由
石井さんは新卒で入社されたとお聞きしています。ファーストキャリアにDMM.comを選んだ理由について、お聞かせください。
石井:領域を問わずいろいろなサービスに携わりたいと考えていたので、新規事業がどんどん立ち上がるような会社に入社したいと考えていました。
いくつか候補があったのですが、DMM.comはその中でも事業数がダントツで多く、また新規事業が次々に立ち上がる社風があります。複数のサービスに関わってきた社員も多いとお聞きしていたので、自分が望む環境に最も近いのではないかと考え、入社を決めました。
AQUIZ事業部への配属を希望したのは、事業部の中でもスタートアップマインドが強く、これから新規事業をつくっていくフェーズだったからです。新卒1年目でも打席に立てる機会があると感じていました。
森田さんは、当時の石井さんにどのような印象を抱いていたのでしょうか。
森田:成長意欲が高いだけでなく、事業視点を持って、サービスの成長にコミットできる人材だと感じていました。
キャリアが成熟する以前の、特に新卒の方は、「自身のキャリアの最大化」のみを最大の目的とし、自分の理想の環境を探し求めてしまいがちです。しかし規模の小さな組織を望むのであれば、まずは事業視点を持つことが極めて重要です。逆説的ではありますが、結果的にそれが自身の圧倒的な成果と成長に繋がります。
石井くんはその点において、新卒ながら事業成長への貢献意識を持っている人材でした。周囲と良好な関係を築きつつも、流されることなく適切なマインドセットを維持し続け、目の前の仕事に熱中しようとする意思が見えたのです。実際、短期間で成果をきっちりと出し、みるみるうちに成長していってくれました。
AQUIZ事業部はM&Aでグループインしているので、事業部という位置付けですが、実質的にはスタートアップです。彼のように圧倒的に事業貢献しながら学習・成長しつづけられる人材を探していたので、入社してすぐに役割を与えています。
石井:入社してすぐに「Androidの開発リーダーね」と言われたときは、流石に驚きましたけどね(笑)。
森田:石井くんには申し訳ないけど、教育にさけるリソースが十分にない、というのもあったんです。荒波に放り込み、勝手に成長してもらうしかなかった(笑)。ただ彼にはそれができる素質を見込んでいましたし、実際すぐに自走して、事業部を支える大黒柱になってくれました。
ベンチャーから大企業へ社内留学
チームの大黒柱として活躍されていた石井さんが、兼務を考えるに至った理由についてお聞かせください。
石井:入社してまもなくは自分が手を動かして開発をしていたのですが、開発業務が落ち着いたタイミングで、チームの育成にコミットするようになりました。コードレビューや基盤づくりが主たる役割になったことで、リソースが空き始めたんです。
そのタイミングでキャリアの幅を広げようと、部署異動を検討していました。とはいえAQUIZ事業部を離れることには悩んでいました。そのタイミングで兼務制度があることを知り、兼務を考えるようになりました。
そもそも「領域を問わずいろいろなサービスに携わりたい」と考えて入社したので、DMM.comというプラットフォームに関われる環境を探し、現在所属する総合トップ開発部との兼務体制がスタートしました。
総合トップ開発部とは、具体的にどのような業務を担当する部署なのでしょうか。
石垣:DMM.comはサービスごとに独立した開発体制を取っているのですが、一方で総合トップ開発部は、DMM.comというプラットフォームとして売上をつくる部署です。行動データから「ユーザーが求めているもの」を突き止め、事業を横断しながらサービスを提供しています。
石井:入社してから単一サービスに深くコミットする経験をしたので、総合トップ開発部で事業を横断する経験ができれば、キャリアの幅が広がるだろうと確信していました。毛色の違う事業を行き来することで得られる学びを、双方に還元しようとも考えていましたね。
兼務するとなると、少なからず主務にかけられるリソースが減ってしまいます。そのことについて、森田さんはどのように考えていらっしゃいましたか。
森田:石井くんが言ったように、当時のAQUIZは、既存事業が安定期に入ったタイミングで新規事業をつくっていこうと考えていました。しかし直近にその予定はなかったので、彼の今後を考えれば、兼務は妥当な選択でした。
彼のキャリアが最大化されることが理想ですから、わだかまりもなく「頑張っておいで!」と伝えた記憶がありますね。
石井:それまでも1on1等で描いているキャリアパスを伝えていたので、快く背中を押してもらいました。責任を持って主務を遂行するために、双方の事業部に支援していただけたこともあって、理想的な兼務をさせてもらえたと思っています。
一人の挑戦が、組織のエンジンに
兼務を実現するのあたり、双方の事業部が行った支援についてお聞かせください。
石垣:コミュニケーションコストが倍になるので、精神的な負担が増えないよう、主務と兼務のバランスは意識していました。
森田:石垣さんの配慮もあり、僕たちとしてはこれといった支援はしていません。業務量が増えすぎないようにしたくらいですが、当人を挟んで適切なコミュニケーションを取れたのは良かったと思います。
兼務を実施したことで、双方の事業部にメリットはありましたか。
石垣:総合トップ開発部としては、メリットしかなかったと思います。単純にリソースが増えますし、他事業部の人材が入ったことで、刺激もたくさんもらいました。
総合トップ開発部のメンバーは、DMM.comという多数のユーザーを抱えたプラットフォームを扱っているために、発生する障害をいかに防ぎ、素早く対処するかという守りの視点が強い。しかし石井くんは、スピード感を持ってサービス開発を進める攻めの視点を持っています。
スキルセットが近くても、マインドセットが違うのです。そうしたメンバーの姿勢を見て、自分のスタイルに取り入れていたように感じます。
森田:送り出す側としても、やはり刺激をもらいました。同じ業務をしていながら、「まだまだ成長したい」と兼務を希望する若手がいるという事実に、襟を正したメンバーも少なくありません。
石井:個人的には、文化の違いを体感できたのが大きな学びでした。同じ企業に所属していながらも、さながら大企業とスタートアップで働いている感覚。「事業を成長させる」とひとくちに言っても、さまざまなアプローチがあることを、身を以て体感できました。
組織の支援があってこそ
経験を踏まえ、今後兼務を検討しているメンバーに伝えたいことはありますか。
石井:サービスを掛け持つことになるので、どうしても頭がこんがらがってしまうことがあります。キャッチアップするのにも頭の切り替えが必要なので、双方に気を配りながら業務を進めなければいけない。だからこそ、主務と兼務、双方の支援を受けることが必須だと思います。
森田:石井くんを見ていて、ポジティブな理由でなければ、兼務は成功しないと感じました。双方の部署に捨てがたい魅力を感じていて、かつ事業部も当人のスキルセットや経験を欲している状態でなければ、二つの部署で全力を出しきることは難しいと思います。
なんらかの不満を抱えた状態で、キャリアの保険的な意味合いで兼務をしていると、一つの案件にかけられる工数や熱量が減ります。結果的に、それぞれ成果が落ちる可能性が高いと思いますね。
石垣:エンジニアであれば、技術力がないと難しいと感じます。具体的にいえば「業務中にSlackが何度も切り替わる」シーンがあるので、その度に頭を切り替えながら、異なる開発環境で業務をすることになるので。
技術力があってもそうした業務スタイルが向いていない人もいると思うので、二つの部署に所属することのリアルを知っておく必要があります。
現在は兼務を終え、総合トップ開発部に異動されたとお聞きしています。今後はどのようなキャリアを歩まれるのでしょうか。
石井:石垣さんがおっしゃったように、総合トップ開発部の中では、スピード感を重視するようなマインドセットが強いタイプです。事業を立ち上げることにも興味があるので、新しい施策の立案にも挑戦していけたらと思っています。
構成:オバラ ミツフミ インタビュー写真:高橋 団