DMM.comの50を超える事業部が、各自に行っている人材開発に焦点を当てる連載シリーズ「キャリア開発のツボ」。育成の課題や進展をリアルにお届けしていきます。
今回フォーカスしたのは、2019年にグループインしたベルリング。DMMグループの人事部とタッグを組み、自動車業界とIT業界の特性を活かしたオリジナルの育成制度構築に力を入れています。
本記事では、ベルリング代表の飯野塁と人事総務本部の大嶋悠也が対談。代表飯野が目指す“少数精鋭組織で世の中に新しい価値を生み出す組織”と、その実現に向けた取り組みについて語っていただきました。
やるのであれば、とことんやろう
2019年にグループインし、2020年11月に新型救急車「C-CABIN」を発表したベルリング。新型救急車の開発は、DMMグループのバックアップもあって実現したそうですが、具体的にどのような支援を行なっているのでしょうか。
大嶋:グループからファイナンスの支援を行うだけでなく、人事部として、中長期の経営を支える組織の構築をサポートしています。
ベンチャー企業は、プロダクトをリリースすることや売上をつくることが喫緊の課題になります。つまり、組織制度の構築や広報業務が後回しになりがちです。グループイン当時のベルリングも例外ではなく、就業規則もまだ存在しませんでした。
入退社手続きや給与振込データの作成など、経営層が自ら手を動かさざるをえない状況にあったため、まずはそうした細かい部分から支援を行っており、これから組織強化に向けた取り組みを進めていくフェーズです。
飯野:会社の規模が小さかったために、法的に就業規則をつくる必要性がなく、それこそ大嶋さんが言うように、後回しにしてしまっていることが少なくなかったんです。しかし今後のことを考えると、労働環境を早急に整備する必要がありました。そのタイミングで大嶋さんを指名し、お手伝いしていただくことになりました。
大嶋さんはDMMグループの人事部で、人事業務にまつわる、あらゆる業務を担当されている方です。また、ファイナンスのバックグラウンドも持っています。喉から手が出るほど求めている人材でした(笑)。現在は週に一度、出社していただいています。
実際に現場を訪れて支援をされているんですね。いちグループ会社への関わりとしては、非常に手厚いものだと感じます。あえてそうした関わりをされているのでしょうか。
大嶋:そうですね。支援をするにあたり、実態調査を目的にオフィスを訪れたところ、まだまだカオスな状態で。そうであれば、自分が現場で手を動かしながら、周囲と連携を図ることがもっともスムーズだと感じました。
また、せっかくDMMグループにジョインしてもらったのですから、その恩恵を現場のみなさんにも受けてほしいと思っています。そのためには、僕たち人事が橋渡しになる必要があるというのが、個人的な考えです。“現場に入らないとできない支援”も少なからずありますから、「やるのであれば、とことんやろう」と、できる限りのリソースを提供しています。
支援はいつも“中の人”のつもりで
DMMグループにジョインする以前と以後では、どのような変化がありましたか。
飯野:やはり一番は、新型救急車「C-CABIN」のコンセプトカーを発表できたことです。私が開発業務に時間を割いている間に採用活動を支援していただき、大手自動車メーカーで活躍していたメンバーにジョインしていただくことができました。彼らがいなければ、これほどまでにスピード感を持って開発することはできなかったはずです。
ほかにも、DMMグループのメンバーにスポットで支援していただけるのもありがたかったですね。セールスが必要だったり、広報が必要だったり、「ここぞのタイミング」で、本社から経験豊富な人材をアサインしていだけるのは、DMMグループにジョインして得られた大きな魅力です。
お陰様でメディア露出を増やすことができましたし、先日の新車両お披露目会も、多くの方にご参加をいただくことができました。
2020年12月18日に開催された、新型救急車「C-CABIN」のコンセプトカー発表会の様子。
採用から広報まで、細かい部分まで行き届いた支援があるんですね。現場に入って支援を行う上で、大嶋さんが気をつけていることはありますか。
大嶋:“DMM.comの人”ではなく、“ベルリングの人”だと認識してもらうことを意識しています。相談フォームを開設して、いつでも話を聞いてあげられる状態をつくるなど、困ったときにすぐ連絡してもらえる関係性の構築に向け、こつこつ動いているところです。
直近は就業規則を作成をしているのですが、ベルリングの経営者たちが大切にしている価値観や、従業員に対する想いをしっかりと反映させるようにしています。組織が拡大しても、ベルリングらしさが薄れないような工夫もしていくつもりです。
たとえば、飯野さんが大切にしている「メンバー全員がプライベートを大切にしながら働ける環境づくり」。フレックスタイム制度やリモートワーク制度といったように、家族を大切にしながら柔軟に仕事ができる体制を整えていきたいと思っています。
今後、組織の強化を図っていくことと思います。独自の育成制度など、DMMグループならではの支援はあるのでしょうか。
大嶋:採用活動を通じて事業をドライブしていくことはもちろん、今後はベルリングの中で戦略的に人材育成を行う体制を整えていくつもりです。
製造技術職の育成は、長年の経験に基づく考え方などを理解するために、一緒に手を動かしながら覚えるといった、体系化されていない領域がまだまだあります。IT業界のエンジニア(技術職)とは、やはり育成プランが異なるんです。ベルリングでは、双方の優れた点を取り入れ、オリジナルのプランを開発していこうと思っています。
また、これからの事業成長のためには、マネジメント人材を育てていくことが必須になります。そのために、個別ヒアリングを実施しながら、必要な知識の補完や経験学習ができる仕組みを整えていこうと考えています。
スタートアップ規模の会社だと、教育や育成に時間がかけられないといった課題も良く耳にするので、先手を打ちながら事業成長を阻害する要因を少しでも排除していければいいなと思っています。
いい仕事をするのに、年次は関係ない
飯野さんが理想とする組織像は、どのようなものなのでしょうか。
飯野:メンバーそれぞれがプロフェッショナルとして自立し、高い生産性で利益を上げる組織にしたいと思っています。
以前ドイツを訪れた際に、限られた時間の中で優れたプロダクトを生み出し、余暇の時間を全力で楽しむワークスタイルを目の当たりにしました。決められた時間に全力で働くことで、仕事以外の時間も充実させていたんです。
少数精鋭で、高い生産性を維持しながら利益をしっかり上げる。得た利益はメンバーに還元し、それぞれが仕事以外の時間も充実させる。それが、僕の理想とする組織です。
しかしそのためには、メンバー全員が広い視野を持ち、自走し続ける必要があります。これまでもそうした方針で組織をつくってきましたが、今後はDMMグループの力を借りながら、より磨きをかけていきたいと思っています。
大嶋:印象深いエピソードとして、飯野さんが「トレーサーではなく、設計士になってほしい」とメンバーに伝えていたことがあります。つまり、決められた仕事をするのでなく、仕事の全体像を俯瞰し、自発的に発想・行動する人材として活躍してほしいというメッセージです。
年次に限らず、機能の一部として働くことをしない。全員がそのスタイルを追求するからこそ、飯野さんが理想とする組織を目指せるのではないかと思います。
飯野:おっしゃる通りです。そもそもベルリングの存在意義は、世の中に新しい価値を生み出すことにあります。だからこそ、利益を上げることができる。しかし、全員が設計士の視点を持っていないと、それを実現することはできません。
従来であれば、若い時期にトレーサーとして働き、キャリアが熟してから設計士になるキャリアが一般的でした。しかし、僕の考えは逆です。得た知識の中で設計しているのでは、新しいアイデアは出てきません。だからこそ、若いうちから設計士として活躍してもらいたいんです。
知見と発想のかけ算で、世界に挑む
現在ベルリングには、どのようなバッググラウンドを持つメンバーがジョインされているのでしょうか。
飯野:自動車メーカー出身のメンバーが多く、特殊車両を製造するモリタで技術部長を務めていた方や、トヨタ自動車でチーフエンジニアの経験がある方など、自動車業界で実績を積み上げてきたメンバーもジョインしてくれています。彼らの知見を借りながら、若い世代と一緒になって事業を推進しているところです。
今後は、どのような人材の採用に力を入れていくのでしょうか。
飯野:現場のニーズを汲み取り、自ら最適解を発想して、具現化できるエンジニアを採用していきます。その後、総務や財務といったポジションを強化し、盤石な組織を構築していきたいと思っています。
中途でジョインしたメンバーは、ベルリングのどのような点に魅力を感じているのでしょうか。
大嶋:これはメンバーから聞いた話ですが、消防車や救急車というパッケージの開発に携われることに新鮮さを感じているようです。また細分化された業務を担当するのではなく、サプライヤーと接点を持ち、設計から開発まで一連の流れを担当できることにもやりがいを感じているとも言ってくれていました。
飯野:それは嬉しいですね。いずれは世界進出するなど、これからもやりがいを感じ続けてもらえる会社でいないとな、と強く思います。
またその際は、現地の企業とパートナーシップを結んでプロダクトを開発しようと思っています。すると、ベルリングを通じ、世界を少しでも豊かにできるので。そんな未来に共感してくださる方にも、ぜひベルリングの門を叩いてほしいと思っています。
構成:オバラ ミツフミ インタビュー写真:つるたま