「DMM Tech Vision」効果でエンジニアが事業にコミットするように
―――改めて「DMM Tech Vision」について教えてください。
谷:「DMM Tech Vision」を発表したのは、2018年10月ごろ。エンジニアを事業にもっとコミットさせようという社内の動きがあり、そのために前CTOの松本さんが考えたのが「DMM Tech Vision」でした。とくに重要なのが4つのバリュー、「Agility(アジリティー/俊敏的)」「Scientific(サイエンティフィック/科学的)」「Attractive(アトラクティブ/魅力的)」「Motivative(モティべーティブ/意欲的)」です。
そこから2年半、エンジニアたちは悩みながら、それぞれの解釈で自分たちの仕事に生かしています。評価制度にも組み入れているので、現場のリーダーとメンバーの間で「Agilityとしてあなたができたことは何ですか」といった会話が交わされています。すばやく対応できたときに「Agility出てるね」といった言葉がパッと出てくるような文化も定着していますね。
渡辺:僕の周りでは、しきりにAttractiveという言葉がよく出るね。Agilityを実現してMotivativeにも疑いがなくなってきたところで、そのサービスがいかに「魅力的」で価値があるかという文脈で、「それはAttractしているのか」という言葉が出てくる。
谷:面談でも「Attractiveが一番難しい」とよく言われます。「そもそも誰にとってのAttractiveか?」と聞かれることも。
渡辺:でも、それを意識できていること自体がすごいよね。
―――「DMM Tech Vision」によって、どんな変化が起こったのでしょうか?
谷:いちばんわかりやすい変化としては、エンジニアが作って終わりでなく、作った結果が売上にどう影響があるのか、コストがどう下がったかということまで意識するようになりました。しかも感覚じゃなくて、Scientificに数字で会話するようになりました。数字の妥当性はこれからなんですけど、そういう会話が生まれているのが一番の変化かと思います。
これまではビジネス部門から開発部門へ依頼するという構造でした。でも今は、一部のエンジニアは事業の責任者に対して自ら提案したり、会話をして情報をもらったりするようになっています。「これをやってほしい」というオーダーに対しても、「なんのためにそれをするんですか?」という会話が生まれています。
渡辺:変化しているのは確かな一方で、まだまだ伸びる余地もある。Tech Visionは罪な言葉だよね(笑)
谷:本当にそう思います。たとえば、開発側の人の提案をビジネス側の人が見たら、正直、チープなものもいっぱいあるんですよね。「そんなんじゃ全然ダメ」と、ダメ出しをいっぱいもらうことになります。
渡辺:それも昔とだいぶ変わったところだね。DMMは「本気の失敗を肯定しよう」とも言ってるし、対話ができるようになったことが大きな変化だね。
ECデジコン本部の仕事は、ユーザーと直接つながれるのも魅力
―――そもそも、ECデジコン本部が手掛けている事業は何でしょうか?
谷:名前のとおり、ECデジコン本部はWebサイトを通じて物やデジタルコンテンツを売っています。物を貸し出すレンタルもあります。これらの売り上げはDMMの中でもかなり大きな割合です。
コロナ禍で、Webを介して物やコンテンツを入手する機会がとても増えたというのがこの1年。その分、ライバルも一気に増えているので、ここからが本当の勝負ですね。
私はECデジコンのGEMだけでなく、動画配信事業部のエンジニアリングマネージャーも兼務しているんですが、舞台などのライブ配信の需要がとても高まった1年でもあります。リアルな舞台にお客さんが入れない状況から生まれた需要ですが、ライブ配信だからこそ人数制限がなく、全国の人が同じタイミングで見られるようになりました。
渡辺:そろそろ、違うサービスモデルも作れるんじゃない? 5Gのような次のテクノロジーが一般化すると、技術的なブレーキがはずれて、もっと違うサービスやモデルを提供できる可能性があるからね。
谷:あくまで個人的な意見ですが、ライブやアニメ、映画などを見ていると、隣の人と「いまのすごいね」と言いたくなるじゃないですか。そういうサービスができればと思ってます。
渡辺:それは楽しみだね。
―――ECデジコン本部の体制や特徴についても教えてください。
谷:人数は全体で500人ぐらい、エンジニアが200人超ぐらい。あらゆる分野のエンジニアが存在しているといってもいいかもしれないですね。ECデジコンには事業が複数あって、チームごとにミッションを持っています。チームの人数はさまざまですが、多くは10名前後。チーム単位でビジネスサイドの人たちと集まり、やることの優先度をみんなで話し合って決め、実行しています。必要だったら横断的に動くこともあります。
渡辺:お客さんとつながる仕事をしていることで、全員が同じ方向を見ていて、すごく強いよね。注目されているサービスだから、ユーザーからの要望もこと細かに来るじゃない。ECデジコンで仕事すると、直接のお客さんからの要望が見えるので、楽しいと思うんだよね。
このあいだは「主婦は平日の昼間しか見られないので、舞台の動画の再配信をこの時間にやってください」という意見が。生活のサイクルの中に組み込むと喜んでくれる人がいるってお客様がわざわざ教えてくれるんだよ。助かるし、勉強になるよね。
谷:こちらの勝手な思い込みかもしれませんが、本当にわれわれのサービスを愛してくれてるなと思います。そうした声はエンジニアも見ているので、それをもとにした提案もあるし、ビジネス側から提案が来ることもあります。
渡辺:その分、不具合やシステム停止などにも、たくさんの反応をいただいて、大変なこともありますけどね。
谷:ただ、自分たちのサービスをどうにかしようと自ら動いてくれるエンジニアも多くて助かってます。障害が起きたときに、本来は夜中の担当じゃないのに復旧に参加してくれる人もいっぱいいますから。
報告が上がってきたときに、大きな改修でなければ、プロダクトオーナーがジャッジしてチームの中で対応してます。上にエスカレーションすることなく、現場で判断できるものは現場で。もちろん、インパクトが大きいものは相談するんですが、ある程度は移譲されているんです。
渡辺:それこそAgility。きちんと現場で決断して実行するというのが、あたり前になっている。すばらしい。
今にもつながる「売れなければ潰れる」「ローンチ後が本番」
―――谷さんのこれまでのキャリアが今のやり方にも影響していますか?
谷:もともと大学では航空宇宙工学を専攻していたので、新卒で宇宙関連の事業もしているメーカーの子会社に入社しました。そこで、官公庁のシステムに関する仕事を4年半ほど担当していました。
それとは正反対のベンチャー企業も経験した後に、建築系のパッケージソフトを作って売っている会社に入ったのですが、そこで良い経験をしました。会社が潰れたんです。親会社の影響もあったのですが、どんなに良いものを作っても売れなかったら会社が潰れる…ということを実体験で学びました。
その次は、SIを提供している会社に転職。そこでは、他社が作ったシステムを巻き取って保守する仕事もやりました。最初は気が進まなかったんですけどね。
渡辺:勇者だね(笑)
谷:みんながやりたくないから勇者なんですよね(笑)。だからこそビジネスチャンスがあるんだと理解しました。お客さんにとっては、システムが動くかどうかは切実。事業会社にとってはローンチしてからが本番なんだと気付きましたね。
渡辺:そこからどうしてDMMに?
谷:事業会社を何社か転々としたあとに転職活動をしていて、エージェントからDMMを紹介されたんです。プロジェクトマネージャーを集めたPMO(Project Management Office)を編成したいということでした。
面接で「やりたいことはありますか?」と聞かれて、「若い人たちの成長に関わっていきたい」と伝えました。仕事になかなか慣れなかった部下が、「こいつがいないと仕事が回らない」という戦力に成長していたことが何度かあったんですが、人の成長に立ち会えるのは楽しい瞬間なんですよね。そういう瞬間にまた出会いたいと思いましたし、DMMなら出会えると思ったんです。
課題解決や挑戦を楽しめる人と一緒に事業を成長させたい
―――ECデジコン本部に向いているのは、どんな人物でしょう?
谷:条件は2つあります。1つは、課題の解決を楽しめる人ですね。ここには課題や問題がたくさんあって、成長する余力もいっぱいありますので。
もう1つは、チャレンジを楽しめる人ですね。ECデジコンには壁がありません。提案したければ、事業部長や本部長のところに突撃して提案ができるんです。ただし、相手は百戦錬磨の人たち。厳しい指摘が返ってきます。そこで凹まずに、何度でもチャレンジすることを楽しめる人が向いていると思います。
場が用意されていることに喜びを感じながら、前のめりに突っこめる人。そういう人たちと仕事をしていきたいと思ってます。
渡辺:DMMはまだまだ途中。いくつかのサービスが生活の中に入り込んで、認知も広まったという自負はあるんですけど、まだまだ大きくより良くできる。いろいろな課題を、一緒に多くの人たちと苦労してシェアしながら、ワクワクできるような会社をものすごい速さで作り上げていきます。
谷:Webを通じてのデジタルコンテンツや物の流通は、まだまだ伸びていくはずです。ただし競合も伸びているので、うかうかしていられません。守りと成長の両輪を同時に回していかなければならないと思っています。
エンジニアもアイデアを出すことで成長していけます。人が成長することで、組織やビジネスも強くなっていく…そんなイメージを描いてます。
構成・編集/平 格彦 取材・執筆/高橋正和 撮影/高山潤也
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