プロダクトデザイナーの大事な役割
DMM TVのプロジェクトではどのような業務に携わっていたんですか?
大塚:デザイン業務全般を円滑に進めるためならなんでもやっていました。他部署とのコミュニケーションハブになったり、デザインプロセスの整備や進行管理、リソース調整など。デザイナーが本質的な業務に集中できるよう、デザイン以外の業務を巻き取り、デザインチームの有効性を最大限に高めることにフルコミットするというのが仕事でしたね。
最近では、こういった役割をデザインプログラムマネージャー(DPM)とも呼んでいます。耳馴染みがないかもしれませんが、実は国内でも徐々に増え始めているロールなんですよ。
恥ずかしながら初めて聞きました……。大塚さんはそのDPMの立場でインハウスのデザインチームを率いていたわけですが、動画配信サービス特有のUIやUXのポイントはありますか?
大塚:基本的に動画配信サービスは全てマルチデバイス対応なので、それぞれのデバイスにあった最適なインタラクションデザイン設計をしなければいけません。例えば、操作方法ひとつとってもデバイスごとに全然違います。Webブラウザだったらマウスですし、スマホアプリだったら指。TVアプリだったらリモコン、ゲーム機アプリならコントローラーです。
©︎山本中学/日本文芸社 ABC
©田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会
©城戸みつる/集英社・カワイスギクライシス製作委員会
©中村勇志(秋田書店)/六道の悪女たち製作委員会
原作:モンキー・パンチ ©TMS
こういった操作の違いに対応しながらも、まず考えるべき重要な点がデザインの一貫性です。一貫性がもたらすメリットはデザインの意図や操作方法におけるユーザーの学習コストを下げて、使いやすくできることです。同じユーザーでも、シーンによって視聴デバイスを使い分けることもあります。そのときにUIやUXがバラバラだったら、すごく使いづらいですよね。どのデバイスでも同じ体験を提供するというのもデザインの大事な役割なんです。
「DMM TVらしさ」とは何なのか
プロジェクトのなかで、注力したことは?
大塚:特に注力したのは「デザイン原則」作りですね。先ほど話した一貫性を担保するために「デザインシステム」の構築に着手しました。これは一貫したデザインを維持するためのルールやガイドラインのようなもの。このシステムを構成するうちのひとつがデザイン原則で、そのプロダクトらしさを届けるためのデザインの約束事を指しています。
これを決めるにあたって、UXリサーチャーやアートディレクター、各事業部のデザイナーなど、社内に在籍するさまざまなデザイナーが集まって議論を行いました。「DMM TVらしさ」とは何なのか。こういった部分を突き詰めて考えたからこそ、しっかりとデザインの方向性を固めることができ、相反する要素があった場合のデザイン上の判断もしやすくなりました。
そもそも、一つのプロダクト開発にこれほど多くのデザイナーが集結することって、これまでなかったと思います。一口にデザイナーといっても、それぞれ領域や特技が違うので出てくる言葉や視点も全然違う。気づきや学びがすごく多くて、間違いなくチームの成長につながりましたね。まさに社運をかけた一大プロジェクトだからこその醍醐味でした。
一方で、反省点はありましたか?
大塚:このプロジェクトは、ある程度完成されたプロダクトで大きくマーケットインすることを念頭にした機能選定や要件などが求められました。しかし、多くのプロフェッショナルが社内外から集結し、大きな組織として動く中で、大規模サービスを作ることに不慣れだった。結果、コミュニケーション設計の部分で多くの課題が顕在化しました。
当初、デザインに関する要求や指示、意図などは使い慣れたFigmaというデザインツールに書き込んでいて、それをほかのチームに共有する形をとっていました。
ところが、次第にデザインの説明を求める問い合わせがSlackで山のように送られてくるようになりまして……。要するに、伝わるだろうと思って書いていたことが伝わっていなくて、膨大なコミュニケーションコストが発生するようになってしまったんです。
明らかに仕様不備、考慮漏れが原因でした。多くのメンバーが携わっていたにも関わらず、「デザインイメージがあるんだから最低限の説明でも理解できるはず」と安易に考えてしまった。ドキュメントの重要性を認識できていませんでした。結局この問題は、別のツールで情報管理するよう運用変更することで解決しましたが、チームとしては大きな反省点になりました。
COOの村中と毎週のように議論する経験
デザインチームはCOOの村中とも頻繁にやり取りを重ねていたそうですね。
大塚:そうなんですよ。こういったところはやっぱりDMMらしい。他の大企業だったら、経営陣が現場まで降りてきて一緒に仕事をするってあまりないじゃないですか。村中さんはこのプロジェクトの事業トップに就いてから、僕を含め毎週のように現場のメンバーと議論していましたからね。
これは、デザインを任されている立場としてはすごくありがたいこと。プロダクトの個性、印象、メッセージなど、デザインを進めていく上で骨格となるフィロソフィーって、やっぱりトップから直接聞いたほうがいいんですよ。又聞きやドキュメントベースだと、伝言ゲームのようにニュアンスが崩れたり、本来持っていたはずの意味が薄れてしまう。特に、定性的な領域を扱うデザイナーにとっては、そのちょっとした違いがデザインに大きく影響を与えてしまうこともあります。
トップと近い距離でものづくりを進めていくこともできましたし、デザインチームにとってはやりやすくもあり、貴重な経験になりましたね。
デザインには事業を左右する力がある
現在DMM TVではどういったデザイナーを求めているんですか?
大塚:自ら課題を設定し、解決するのが好きなデザイナーの方と一緒に働けたらいいなと考えています。なぜそういった方を求めているかというと、DMM TVが継続購入のサブスクモデルを採用していることが関係しています。このモデルで大事なのは、継続的にユーザーと信頼関係を築くことです。デザイナーだったら、何度利用してもストレスの少ない体験を追求していくことがその信頼につながっていきます。
でも、それは与えられた業務に従事するだけではなかなか実現できません。事業の課題をデザインでどう解決していくか。こういった視点で上流工程からコミットしていくデザイナーこそが、ユーザーの価値につながるデザインを生み出すことができると思います。ぜひそういったデザイナーの方に来てもらい、一緒にデザインチームのプレゼンスを上げていってほしいですね。
これから大塚さんが実現していきたいことは?
大塚:まずはDMM TVのファンをもっと増やしていきたいです。そのためにデザインチームとしてもやるべきことは多くあります。ただし、デザインに「銀の弾丸」はないと思っています。アクセシビリティにはじまり、ユーザビリティや機能改善を続け、優位性を積み上げていく。これを着実に繰り返しながら、サービスの魅力を伝えていきたいです。
チームとしてはデザイン的なアプローチを組織に組み込むためにも、事業に積極的にコミットしていくデザイナーチームを作りたいです。プロダクト開発におけるデザインは、さまざまな制約がある中でもユーザーが満足いくように、状況を解釈しながら問題を解決するための行動だと思っています。つまり、事業を左右するだけの力を持っているはず。そう信じて、いろいろあるけどDMM TVが1番使いやすいと思っていただけるプロダクトを作っていきたいですね。