GIGATOON Studioオリジナル作品『オトサツ』がドラマ実写化に至るまで
テレビドラマの世界で漫画原作の映像化が増えたのは今から10〜15年前だといわれている。各局がヒット原作をいち早く押さえるべく奔走しているというが、今回『オトサツ』の実写化に踏み切ったテレビ東京には特殊な事情があったという。
テレビ東京では、テレ東だからこそやれる面白く尖った原作を常に探しています。そんな折に、『全裸監督』などを手掛けたプロデューサーのたちばなやすひとさんとご縁があってDMMさんを紹介いただきました。GIGATOON Studioさんで制作しているデジタル漫画と、尖ったドラマをやっているテレ東は相性がいいのではないか、と。候補作品の原案を読ませていただいた中に『オトサツ』があり、深夜ドラマで実写化したら当たると確信できたことから『ぜひ』とお願いしたのがはじまりです。
五十嵐も「実写化するなら『オトサツ』がベスト」と考えていたという。GIGATOON Studioのオリジナル作品にはサスペンス・スリラーやタイムリープものなど幅広いジャンルがラインナップされているが、なかでも『オトサツ』が一押しだったのにはどんな理由があったのか。
GIGATOON Studioのミッションのひとつは、DMMブックスの新規ユーザー獲得です。新規ユーザーを獲得するためには、プラットフォーム外のチャンネルでコンテンツをプロモーションする必要があります。実写化はそのために有効な施策だと考えていました。ただその場合、ドラマがスタートした時点である程度の話数が配信されていなければ意味がありません。そうしたスケジュール面の課題をクリアできるという点からも合理的に判断して、『オトサツ』が実写化に至りました。
もともと小学館で長年漫画編集をしていた五十嵐は、自身の経験に照らしても「漫画が世に出る前から実写企画を進めるのは非常に稀なケースです」と語る。この挑戦を実現できた背景には、Web縦読み漫画という形式ならではの特性があった。
Web縦読み漫画だからこそできた、自由なクリエイティブ
いわゆる横読みの一般的な漫画は漫画家個人が一から十までひとりで考えてつくっているので、当然作者に権利が帰属します。したがって映像化にあたっては漫画家が納得する内容にすべく、許諾や確認に時間をかける必要があります。一方Web縦読み漫画は、原作者、作画担当、ネーム担当など分業制でつくられていて、権利は我々でいうとGIGATOON Studioに帰属しています。そのため映像化に際して我々が主導して進められるんです。
両者ともに「経験したことがないようなスケジュール感だった」と振り返る。新たな取り組みゆえに初めて直面する苦難も多かったのではないかと推察するが、倉地プロデューサーは「さほどでもなかった」という。
原作が持つ本質をどう抽出して映像表現として面白いものにするか、改変点を含めてご相談させていただくことが多かったのですが、とても寛容に受け入れていただきました。しかもそうした際のレスポンスがとにかく速くて、それが非常にありがたかったですね。
テレ東さんには最初の段階で『自由にしていただいていいです』とお伝えしました。監督に自分の作品だと思っていただいて、ご自身の考えるテーマ性をぜひ盛り込んでください、と。というのも、僕らがWeb縦読み漫画をつくるとき、エンタメを超えたところにあるテーマや社会的意義といったものは意図的に排除しているんです。Web縦読み漫画はいい意味であくまでインスタントに楽しさを求めて読むものなので、そこにメッセージ性や考察要素が入ってくるとある種ノイズになってしまう。『オトサツ』ならとにかくシンプルに、復讐のカタルシスを爽快に見せていくことに終始しています。ただ、それだけでは映像化したときにもたないと思っていました。なので、そうした背景を説明した上で、本作の肝である復讐の気持ちよさをテンポ良く見せるという核だけ守ってもらえれば、あとは自由にしてください、と。
一生懸命つくられた漫画が映像化されるとき、『任せます』というのは本来すごく不安なことだと思いますが、そこで信じていただいたことで、監督のやりたいことを最大限に尊重することができました。それが結果、視聴者の方に届いたのだと思っています。
テレ東さんにとってもかなりリスキーな挑戦だったんじゃないかと思います。原作は配信が始まったばかりで反響がどこまで大きくなるか未知数でしたし、GIGATOON Studioはまだ立ち上がったばかりで大手出版社のような実績があるわけでもない。にもかかわらず、見事に映像化しヒットに導いていただきました。
こうして前代未聞の速度感でつくられたドラマは、前述の通り大きな反響を巻き起こした。
とにかくムカつく旦那をギャフンと言わせる復讐のカタルシスが十全に描かれていて、それを演じられたキャストの方々も完璧でした。その上で、監督が表現したかったであろうテーマ性がしっかり存在していて、Web縦読み漫画では意図的に排除したがゆえに足りていないものを埋めていただいていたと思います。
また、野田は「Web縦読み漫画と映像の親和性の高さを感じた」といい、Web縦読み漫画ならではの“引きのある強い表現”が映像の面白さに繋がったのではないかと分析している。
引きの重要性については僕もすごく勉強になりました。近年のドラマは1話完結型が主流になってきているんですが、続きが気になる展開をつくることはやはり大事なんだ、とあらためて認識しましたね。『オトサツ』はTVerでは全話100万回再生を超えたのですが、これはなかなか類を見ない数字です。原作の持つ力が強かったから最終回まで視聴者を惹きつけ続けられたんだと思います。
テレ東プロデューサーが見たDMMの柔軟性と迅速さ
今回の施策が成功し得た理由を、倉地プロデューサーは「柔軟性と迅速さ」に見出す。
今回、五十嵐さんや野田さん、太田さんをはじめとするDMMのみなさんには、あらゆる場面でとにかく迅速かつ高い柔軟性を持って意思決定をしていただきました。おかげで、機を逃さずに本企画を実現できたと実感しています。
五十嵐は「内部にいる身としても、判断が必要なときのスピード感はやはり普通の企業と異なると感じました」と同意し、加えてDMMならではの強みとして自社でプラットフォームを持っているという点をあげる。
前提として、DMMブックスというプラットフォームにとって大きなプラスになるというロジックがあったことで今回の施策は成立しています。これは普通の出版社だったらできなかった。DMMはプラットフォームとしてアセットがすごく多いので、映像化された作品をDMM TVで配信したり、舞台化などを実現したりすることもできる。大きなプラットフォームがあり、そのアセットを活用した戦い方ができるのはほかにない強みだと思います。
『オトサツ』という成功例ができたことで、ストロングポイントを活かした挑戦は今後ますます広がりそうだ。野田もマーケティングの観点からさらにやってみたいことが生まれているという。
できるなら、映像化を最初から視野に入れて原案づくりからご一緒するようなことも一度やってみたいですね。せっかくこうしてひとつの成功体験を共有させていただいたので、末永い関係になっていければいいなと。
いいですね!今回の件でより施策を柔軟に考えられるようになったので、いろいろと試していきたいところです。また、オリジナル作品の映像化に関してはDMM TVとの連携もより頑張っていきたいです。電子コミックはバナー広告が強いですが、やはりそれだけでは限界もあります。IPとして育てていったり、認知度を上げて多くの人に読みたいと思ってもらったりする場合のマーケティング手法として映像化が非常に有効だとあらためて認識できたので、十二分に活用していきたいですね。