教育、水族館、サッカークラブ。——領域の異なる50以上の事業を展開するDMM.comで、ほぼ全ての事業を管理・掌握している最高執行責任者(COO)村中悠介。 連載「建前なしの事業部談話」では、村中が各事業部の事業部長(メンバー)と対談。事業運営の実情について、建前なしで赤裸々に語っていきます。
今回は、エンターテインメント本部長の鶴田直一が登場。エンタメにまつわる各事業部を掌握する立場として、どんな戦略で事業を展開しているのか。DMMのアニメ制作の裏側や、コロナ禍での取り組みについてまで、話を聞きました。
営業マンから〝何でも事業企画屋〟へ
10年前にDMMグループに入社され、社員の中でも古株になる鶴田さんですが、当時はどういった経緯で入社されたんですか?
鶴田:「DMMクーポン」というサービスの営業マネージャーとして、グループ会社に入社したのが始まりです。飲食店やマッサージ店にクーポンを導入してもらい、契約を獲得してくる仕事でした。私が入ってから1年足らずでクーポン事業は撤退してしまうのですが、そのあと村中さんの元で様々な事業企画を担当しました。
村中:本格的に一緒に動き出したのは、公営競技事業の立ち上げからだよね。
鶴田:はい。入社当時の「営業」という役割から大きく拡がって、経営企画室に所属しながら社内の〝遊撃部隊〟として、既存事業の立て直しから新規事業の立ち上げまで、いろいろ経験させてもらいました。当時立ち上げた新規事業の代表例が『DMMバヌーシー』と、私が今やっているアニメの事業になります。
村中:『DMMバヌーシー』では、真冬の牧場で、凍えながら馬の買付をしたこともあったよね(笑)。当時チャレンジした新規事業は、トライ&エラーで撤退したものも少なくなかったけど、泥臭く挑戦し続けた結果が今に繋がっていると思うよ。
村中:アニメの事業で言うと、ここに参入することはDMMとしては実は大きな意思決定だったんだよね。従来のDMMのビジネスモデルって、あくまでコンテンツを「仕入れて売る」が基本形。レンタルビデオでも動画配信でも、我々はコンテンツを作る側ではなく「売る側」に徹していたけど、アニメの事業では初めて「作る側」にまわった。
鶴田:DMMの歴史的にも、1つの転換点だったかもしれないですね。僕たちはコンテンツを仕入れることは得意でしたけど、ゼロから作るノウハウはなかったので、立ち上げ当時は大変でした。社内にアニメ製作に詳しい人もいなかったので、業界人にとっては当たり前のような内容を、コツコツと地道に調べるところから始まりました(笑)。
「世界に届ける」という軸はブレない
アニメといえば、最近は『鬼滅の刃』が空前の大ヒットで、アニメブームがさらに加速している印象があります。
鶴田:少し前までは「アニメ=オタク文化」で、少し恥ずかしい趣味という感覚がありましたけど、今はまったく無いですよね。Netflixなどの動画配信サービスも充実してきて、アニメを取り巻く環境はここ数年で大きく変わったと思います。
村中:アニメの魅力って、一言で言うと「世界中の人に届きやすい」という点に尽きると思う。日本のエンタメコンテンツの中で、アニメが一番世界に刺さりやすい。Netflixで日本のアニメ作品が次々と配信されて、トレンド上位を独占しているのもその証左じゃないかな。
鶴田:そうですね。DMMのアニメ作品も「世界に届くものを作る」というコンセプトが土台にあって、そこは今も全くブレてないです。たまに日本人向けのニッチな作品も扱いますが、意識は常に海外に向いてます。
村中:とは言っても、どんな作品が確実に海外の人に刺さるかは分からないから、毎回がチャレンジだよね。たとえば「女子高生が戦う...」みたいな設定って、日本人ウケはするかもしれないけど、海外の人にはあまり刺さらない。法規制や宗教観もバラバラだから、国によっては女子高生に銃を持たせた時点でアウトで放送できない、みたいなケースもあって本当に難しい。
鶴田:最近は、講談社さんと一緒に『ブルーピリオド』という、芸大を目指す高校生の物語のアニメ化を発表しました。芸大受験の物語は、ジャンルとしてはニッチかもしれないですけど、画家は昔から世界中にいるし、もしかしたら世界に広く刺さるかもしれない。試行錯誤しながら、いろいろな作品でチャレンジを続けてます。
DMMが製作するアニメの特徴は、どういった点にあるのでしょう?
村中:オリジナル原作のアニメ化に、積極的に取り組んでいる点が大きいかな。『鬼滅の刃』もそうだけど、そもそも人気のマンガ原作があって、それをアニメ化して届けるという形がアニメの作り方としては定石。DMMも勿論それはやるけど、一方で原作をゼロからつくってアニメ化していくことに、より積極的にチャレンジしている。
鶴田:オリジナル原作って本当に難しいです。マンガ原作と違って、ファンが世の中に0人の状態で第1話の放送を迎えるわけですから(笑)。空振りの可能性も高いけど、もしかしたらホームランを打つかもしれないし、DMMらしいチャレンジ魂で取り組んでいます。
村中:ここには、ゼロから新しい作品をつくるクリエイターの方たちを仕組みとして応援したい、という想いもあるんだよね。僕らがアニメ化してNetflixに配信すれば、いきなり2億人に見てもらえる可能性があるわけだから、クリエイターにとって今はすごいチャンスの時代でもある。
鶴田:そうですね。これからも、挑戦したいクリエイターの方と一緒に原作開発をして、まだ世の中にない新しい作品を世界に届けていきたいです。世界に届ける難しさと、それをあえてオリジナル原作で挑戦する難しさ。どっちも大変ですけど、その分やりがいは大きいですね。
安全で、価値あるエンタメサービスを
アニメの他に、エンターテインメント本部としては、どのような事業を展開されているのでしょうか?
鶴田:大雑把にいうと「IPビジネスにまつわる事業」が集まっている部署です。アニメ製作を中心に開発したIPを、配信・商品化・舞台・音楽・コミュニティなど、多岐に渡ってクロスメディア展開できる事業部が集約されてます。
村中:自社完結で、ここまで幅広くIPの事業展開ができる体制を持っているところは他に無いんじゃないかな?
鶴田:そうですね。おかげさまで、IP展開に課題を抱えるクライアントさんからご相談いただく機会も増えてます。オンラインくじの『DMMスクラッチ』は、昨年の売上が前年比4倍近くまで伸びました。他にも、例えばゲームと連動するなど、DMMグループ内の他事業と素早く連携できるので、他社には真似できないマネタイズ手法をたくさん提案できるし、それが着実に結果に表れてきているなと思います。
コロナ禍で自宅時間が増えて、スマホやPCに触れる時間が長くなっているユーザーも多いかと思いますが、そういった影響はありますか?
鶴田:事業的には追い風になっている側面もありますが、課題も山積しています。エンタメ業界に限った話ではないですが、「オンラインへの移行を、ユーザーの満足度を下げずにどこまで実現できるか」という点が、コロナ禍の中ではポイントになってくるかなと思います。
村中:世の中が大きく動くときは、基本的にはチャンスだと思ってて。DMMのように意思決定が早く、いろいろな事業をやっている会社は、突然の変化にも対応しやすい。うまく時流を捉えて、この不安定な状況下を乗り越えていきたいね。
鶴田:世の中には、半ば強制的にオンラインに移行せざるを得なかった人が数多くいると思います。彼らが使いやすいもの、使いたくなるものを提供したいという想いが強いです。
村中:IPビジネスは、オンラインとの相性はもちろん良いし、新しい事業展開のアプローチが無限に考えられる世界。DMMらしく他社には真似できないアプローチで、貪欲にチャレンジを続けていきたいね。
構成:柴崎研 写真:高山潤也