DMMグループのベルリングによって企画・開発された新時代の救急車「C-CABIN(シーキャビン)」が、神奈川県立こども医療センターに導入されました。ベルリング代表の飯野塁とともに、同センターの星野陸夫医師に導入の決め手を聞きました。
救急車に新しい選択肢を
飯野:こども医療センターさんは全国で3番目にできた歴史ある小児病院だと伺っています。どういったきっかけでC-CABINのことを知っていただけたのでしょうか?
星野:すでに定年退職した新生児科医師だった元院長が、医療に関わる機材にかなりマニアックで(笑)。新たに機材を導入するとなったら、いつもすごく一生懸命に勉強してくれていたんですね。
以前から老朽化のため新しい救急車を導入するという話は持ち上がっていて、いろいろと調べる中で彼が見つけてきたのがベルリングさんでした。
飯野:その時は私たちに対してどのような印象をお持ちになったんでしょうか?
星野:正直、それまで救急車の選択肢はほとんどなかったんです。だから最初は「へえ、こんな会社があるんだ」って驚きましたね。
飯野:おっしゃる通り、救急車の選択肢は非常に少ないのが現実なんです。しかも、長らく機能のアップデートもされてこなかった。だからこそ、私たちはその現状を打破し、医療や救急の現場の課題を解決する新たな救急車づくりを目指してきました。「広い、揺れない、使いやすい」。C-CABINはこの基本コンセプトをもとに作られています。
電動ストレッチャーで実現した省力化と安全性
星野:まさに私たちがC-CABINに感じたのも、従来の救急車から大きくアップデートされた機能性。こども医療センターとしてもそこが導入の決め手となりました。そのひとつが電動ストレッチャーを搭載できるという点です。
私たちの領域では、生まれて間もない赤ちゃんや分娩前後のお母さんを、こども医療センターと近隣の病院間で搬送する際に救急車を使用することが大半です。患者さんである赤ちゃんの体が小さく、環境の変化に弱いため、ストレッチャーの上に乗せた保育器に入れて搬送するのですが、これが見た目以上に重く、手動だとどうしても扱うスタッフの体にも負担がかかります。
こういったストレッチャーの準備自体も、病院が契約している専門の運転手さんが一人で行うことがあるため、省力化と安全性を実現できる電動ストレッチャーに変えられたらいいな、というのは以前から強く思っていました。
準備を行う際も、電動ストレッチャーのため1名で楽な対応が可能に
飯野:電動ストレッチャー自体まだまだ普及していない中、保育器にも対応した電動ストレッチャーを導入されたのは全国でも先駆けだと思います。実際、運転手の方が電動ストレッチャーを準備されているところも見せてもらいましたが、早速スムーズに使いこなしていましたね。
星野:ボタン一つで上げ下げできるので、取り扱いもずいぶん楽になったみたいです。それに安全面も大きく向上したと思います。手動のストレッチャーの時は、なにかの拍子に落下させてしまう可能性もないとは言えませんでしたが、電動ならばそういった心配もまずいりません。
ベルリングの強み
飯野:こども医療センターさんには電動ストレッチャーを3台導入いただきましたが、この台数での運用は長いんですか?
星野:1992年に新生児科と産科を併設した総合周産期センターになって以来、1台では余裕をもって対応できなくなってしまったので、それからずっと3台運用を続けています。そのうち保育器が搭載されたストレッチャーは2台。たとえ搬送が連続しても、交互に使うことで常に清掃済みの保育器を載せたストレッチャーを使うことができるので効率がいいんです。そして、残り1台のストレッチャーは、保育器に入れられないお子さんや、お母さんを運ぶ用途で使っています。
こういったストレッチャーは、大事な患者さんを運ぶもの。妥協はできませんし、3台という数も譲れませんでした。ただ、そうは言っても使える予算は限られています。最終的には、私たちが求める機能と価格の条件をクリアしたものをベルリングさんに提供いただけたので助かりました。
飯野:今回の電動ストレッチャーは、日本のバン型救急車に適したコンパクトなサイズ、機能も必要十分な、ヨーロッパの製品です。このように現場の要望に合わせて、救急車の内容をご提案ができるのは私たちの強み。車両の設計と機材の選択、どちらも扱っているからこそできることです。
医療従事者のための快適なシート
星野:C-CABINを選ぶ上で、もうひとつ大きな決め手となった機能があります。それが、個別に座る向きを自由に変更できるシートです。患者さんが乗っている最中にスタッフは休憩するわけにはいきませんが、そうではない時には同乗する医師や看護師だって快適な状態で座らせてあげたい。でも、従来の救急車ではベンチシートにずっと横向きに座ることしかできませんでした。
飯野:C-CABINのシートは、従来のように横向きのベンチタイプにもできるのはもちろん、一般車両のように前方にシートの向きを変えることもできます。さきほど、実際にC-CABINを利用している医師の方々に乗り心地を伺ったのですが、「椅子の向きが変えられるから乗っている時に気持ち悪くならない」と言っていただけました。作った甲斐がありましたね。
星野:3点シートベルトもあるので安全性も担保されています。こういった椅子の機能は、ほかのメーカーでは実現されていません。せっかく新しい救急車を導入するなら、患者さんだけでなく、スタッフの快適性も考えられたものを選びたいと思いました。
実際にC-CABINに乗って患者さんを搬送されている清水先生・高橋先生・片岡先生
揺れない救急車が小さな命を守る
飯野:C-CABINは独自開発したボディと板バネにより、防震台がなくても従来の救急車よりも「揺れない」構造になっています。普段救急車に乗っている医師の方々からも、「以前の救急車より保育器の中の赤ちゃんが揺れなくなった」、「ちょっとした刺激で出血してしまう未熟児もいるので揺れないことは患者さんのためになる」といった前向きな感想をいただけて、私も安心しました。
星野:やはり新生児科の医師としては、揺れは気になる部分だと思います。例えば、体重600g以下の未熟児の患者さんを救急車で搬送することもあります。人工呼吸のため気管チューブを体の中に入れている場合、救急車に同乗する医師は片手でずっと抑えながら移動しなければいけない。
この時に車体が大きく揺れたりすると、チューブが抜けてしまわないか心配になります。たとえチューブが抜けなくても、揺れの影響で状態が変化してしまうんじゃないかと神経を使う。そういうところはすごく注意しているので、やっぱり救急車は揺れないに越したことはありません。
「日本の救急を変える。救急のプロとともに。」
飯野:今回、星野先生にお話を伺って、とても考え抜かれた上で私たちの救急車を選んでくれたというのがよく分かりました。
星野:もともと新生児領域の医療って機械にすごく依存しているんですよ。保育器、モニター機器、検査機器、それに治療機器もそうです。こういった医療機器の進歩と共に、助かる患者さんの数も質も向上してきました。なので、医療に関わる機械に対する思い入れは、おそらく他の領域よりは強い。だからこそ、C-CABINにもとても興味が湧いたんだと思います。
飯野:私たちは救急隊でも、医療従事者でもないので、人の命を直接救うということはできません。それでも、「日本の救急を変える。救急のプロとともに。」という想いをもって日々開発を続けており、少しでも貢献ができたらと考えているんです。まだまだ小さいメーカーかもしれませんが、現場が抱えている課題に丁寧に向き合いながら、より良い車両を作っていくつもりです。
星野:全国のいろいろな現場を知っていただき、救急車をさらにアップデートできるといいですね。これからもベルリングさんの活躍には期待しています。
神奈川県立こども医療センターに導入されたC-CABIN