なぜこのタイミングで、電子書籍にフォーカスしたのか
国内における2021年度の電子書籍市場規模は5510億円、2026年度には8000億円規模(*1)になると見込まれている。そんな電子書籍の中でも特に成長著しいのが、縦読み漫画と呼ばれる、縦スクロールで読み進めるフルカラーのデジタルマンガ。このコンテンツは世界中で急速に市場規模が拡大しており、2028年には約3兆7512億円規模(*2)になるとも言われている。
(*1) 電子書籍ビジネス調査報告書2022(*2)Market Research.com - Global Webtoons Market Size, Status and Forecast 2022-2028
こうした市場の動向を受けて、DMMでは2000年から開始してきた電子書籍サービス(旧DMM電子書籍)のブランドイメージを刷新。名称を「DMMブックス」と改めて、2021年3月に再スタートを切った。
そして同年12月には縦読み漫画事業への参入とコンテンツ制作スタジオ「GIGATOON Studio(ギガトゥーンスタジオ)」の設立を発表。オリジナルマンガの制作から販売までの一貫体制を整えた形だ。
DMMがこのプロジェクトに注力するのは、「プラットフォーム事業の規模拡大には、電子書籍サービスの成長が必要不可欠だから」だと棚田は言う。そして、この成長角度を最大限に高めることが、二次元事業本部に求められているミッションでもある。
しかし、国内にはすでに40を超える電子書籍サービスがあり、ライバル多き競争市場だ。
「DMMではゲーム、動画、証券、英会話……とさまざまなサービスが提供されています。事業間のシナジーをもっと生み出していくべきだろうと、事業横断のマーケティング組織を設置し、改革がスタートしました。そのなかで、電子書籍はユーザーを獲得できる事業です。DMMのエンタメ系の事業におけるミッションは国内No.1エンタメプラットフォームを目指すこと。その顧客獲得の入り口となり得る事業として、月額サービスのDMMプレミアムや電子書籍は全社戦略においても重要な事業なのです。」(太田)
この「入り口」としての役割を果たすため、DMMブックスでは、社内の他事業との横の連携を意識した施策がいくつも打ち出されてきた。たとえば定期的に実施される、電子書籍の購入金額の一部をポイントとしてバックする「ポイント還元セール」。このポイントは、DMM内で共通利用できるため、他事業の利用を促すことにつながっている。
ほかのサービスでも利用可能なポイントを付与することで、「DMMブックスを選ぶ理由」をユーザーに与えている。いかにDMMブックスで買う意味を持たせるかが、プラットフォーム戦略における鍵となっている。
「僕らが目指すのはもちろん、電子書籍サービスとして業界No.1になることです。闇雲に価格競争に持ち込もうとしているわけではありませんが、お得感を出すことでユーザーが集まれば、読者の多い僕らのプラットフォームにクリエイターが作品を出してくれる。作品が集まればプラットフォームを強化していける、というサイクルを回していきたいのです。そうやってUXを高めていければ、ユーザーの満足度も上がり、社内の別サービスへ波及もできると考えています。」(太田)
編集者100人採用、マンガ原作のドラマ制作……総合エンタメ企業だからできること
電子書籍サービスの強化にあたり、DMMブックスが抱えている課題は何かと問うと「現在は男性の顧客層が厚い状況です。女性ユーザーの取り込みに向けて、女性向けコンテンツの充実を急いでいる。」(棚田)という。
そこで打ち出したのが、未経験者も含めた「編集者100人採用」だ。DMM内にはデジタルコミックス制作の関連子会社が3社あり、自社コンテンツを強化することが狙いだという。
「DMMにはプラットフォームも出版社もある。プラットフォーマーとコンテンツホルダーの合算の収支で、コンテンツへの投資を回収できればいい。出版社として挑戦できる幅は大きいですし、出版社として強くなればその分だけプラットフォームへの貢献も大きくなるんです。編集者100人なんて大胆な採用は、プラットフォームと出版社の両方を持っているからこその大胆な戦い方ですよね。」(棚田)
※編集者100名採用の目的や今後の展開について、こちらで詳しく取材しています。挑戦し続けるDMMのデジタルコミック事業 100名採用の意気込みを語る
加えて、韓国発の縦読み漫画を強化することによって、従来のマンガ好き以外の層へのアプローチにも力を入れている。
「普段はマンガを読まないという人でも、縦読みマンガならまったく別のコンテンツとして受け入れやすくなる傾向があるようです。読者にとって何が読みやすいのかに合わせて、さまざまな形式があっていいと考えています。」(太田)
一方で、デジタルコンテンツならではの悩みも浮上してきているという。デジタルの集客は広告で呼び込むモデルが一般的だが、広告料の高騰とともに、集客コストも上昇し続けている。
そこでDMMが新たな可能性を見出したのが、ドラマとの横断連携だ。2023年1月からテレビ東京系で放送された縦読みマンガ原作のドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』は、見逃し配信再生数が全話100万回を超えるなど、大きな注目を集めた。DMM TVでもサブスク配信し、アプリ版では原作漫画も読める。
このドラマをきっかけに、話題づくりとDMMブックスへの集客に成功。まさに事業横断によるシナジーが生まれた例だ。
「まだ正確な数字は出ていませんが、CAC(顧客獲得コスト)換算すると費用対効果はかなりいい印象です。総合エンタメ企業として、ドラマのプラットフォームも販売場所もある。さらにコンテンツを独占的にメディアミックスしていける。DMMだからこそ実現できた施策だったと思います。」(太田)
「正解」は求めない〜総合エンタメプラットフォームNo.1へ〜
オリジナルコンテンツ・縦読みマンガの強化、事業横断で実現させるメディアミックスと、次々とチャレンジをしている二次元事業本部では、さらなる事業拡大、チャレンジに向けて共に走る仲間も募集中だ。
「入社前にどんなキャリアを歩まれたたかももちろん大事ですが、どういう方が馴染むか考えると、入社してから自ら能動的に情報をキャッチアップして、周囲を巻き込み推進できる方は、フィットが早いですよね。必要だと感じたら臆せずヒアリングのためのミーティングをお願いしたり、気がついたら調査を進めて情報通になっていたり、幅広い手法で自分からどんどん一次情報を取りに行くような方は、自然と活躍していますね。」(棚田)
新しいチャレンジを続けているからこそ、DMMでは「正解」は求めない。既成概念にとらわれず、攻めの仕事姿勢をチャンスと捉え、成長していける人材を求めている。
最後に、今後の抱負についても、ふたりに聞いた。
「電子書籍サービスのトップを目指すのはもちろん、DMMとして総合エンタメプラットフォームのNo.1目指していきます。」(棚田)
「個人でいえば、仕事の領域を広げて、いろんな価値を出せる人間になりたいですね。プラットフォーム事業としては、より多くの洗練された作品が集まって、よりよい読書体験を提供できる場をつくりたい。僕のビジネス人生は海外勢に負けてばかりだったので、グローバルプラットフォームになって、日本のモノづくりを広げていきたいですね。」(太田)