この記事にアクセスして読んでくれている皆さん。こんにちは。
動画配信事業部・配信基盤チーム所属のデラミヤと申します。
「進化する動画配信基盤」についての連載第4回目となるこの記事では、エンジニアリング以外の契約に関するお話 について記載します。
連載スタートにあたっての目次記事はこちらです。
https://inside.dmm-corp.com/articles/02/04/evolving_content_delivery_platform_00
お客様に動画をお届けするためには、エンジニアリング以外の工程も大事
私はこのチームにおける「非エンジニア」メンバーになります。当社はテックカンパニーですが、全員がエンジニアというわけではありません。
エンジニアリング以外のシーンでチームをバックアップする役割も必要になります。
開発チームの仲間が安心して開発作業に集中できるように、それを支える仕事について今日はご紹介したいと思います。 その一つが「契約」になります。今回は契約のなかでもDRMに関する契約を取り上げます。
DRMを使用するために契約が必要
動画配信の世界における、主だったデファクトスタンダード(事実上の標準)技術の代表例としてDRMがあります。
Digital: デジタル
Rights: 権利
Management: 管理
日本語ではデジタル著作権管理という意味で用いられます。
デジタルな商品を扱う当社では、購入した人のみデジタルコンテンツをお楽しみいただけるように、購入コンテンツに鍵をかけ適切に解錠するDRMのライセンス利用を必要とします。 このようなDRMのライセンスを提供している企業は、海外に拠点を置くグローバル企業がほとんどであり、これらの企業と契約を結んでDRMのライセンス利用を実現させていきます。
プログラミングを行わなければ製品が作れないのと同じように、契約をきちんと成立させてDRMを利用できるようにしないと、せっかく作ったデジタルコンテンツをお客様に届けることはできません。
その意味で、契約はとても大事な工程になるのです。 そして、この契約の仕事は、締結までの道のりが非常に長いです!!
以下に、私が担当している契約に伴う各ステップの仕事内容をご紹介していこうと思います。
STEP1.契約書の雛形をもらう
まず何よりも先に、契約を交わすためには契約書がないと話は始まりません。
そこで最初に問題になるのは、当方と先方どちらの契約書の雛形をベースにして協議すれば良いのかということになります。 これは、どのような契約を交わす時にも必ずと言っていいほど話題に上がることかと思います。
何千文字にもなる文面を最初からつくるのは労力を要することですし、自社の雛形をベースに契約書をまとめることができれば(勝手が効くぶん)、契約面で有利になる面もあります。
しかしながら、DRMという特殊な製品、かつ相手先がグローバル企業の場合、先方の契約書の雛形を使うケースがほとんどです。
世界各国の企業と取引しているグローバル企業にとって、取引先ごとに個別契約を成立させて対応するというケースは(私のこれまでの経験上では)少ないです。
先方保有の契約書の雛形を受け取り、これを自社でチェックするというのが基本のスタンスになります。 先方に日本支社の窓口がある場合には日本語でOKなのですが、そのようなケースは少ないので英語で連絡を入れ契約書の雛形を入手します。
STEP2.手に入れた契約書をチェックする
上記で手に入れた契約書をチェックします。 和訳での確認が必要な場合は、契約書の翻訳作業は専門的な話となるため、翻訳業者に依頼します。 和訳された内容を、例えば下記のような項目に着目して細かく見ていきます。
- 利用用途の範囲
→自分たちが想定している使い方がそもそも許可されているのか、最も根底となる部分なります。 - 定義事項
→言葉の定義を確認します。例えばcomputerという言葉があった場合、それはPCの範疇なのか、スマートフォンなどのデバイスを含めるのかなどを確認します。 - 規約事項
→ルールのチェックになります。許可されていること、禁止されていることを1項目ずつ確認します。 - 違約金などの記載
→万が一の罰則事項(違約金等)を確認します。この項目はとても重要で、今回の契約を締結する際のリスクがどの程度なのかを見極める指標となります。 - 契約の有効期限の定義
→契約書が締結から失効するまでの期間や継続時の条件等、期限に関する取り決めを確認します。
不明点が出た場合には先方に質問をすることになります。
STEP3.注文書と契約書の紐付け
ライセンスを購入する際には、注文書と契約書に分かれているケースがあります。 この時に、注文書と契約書が文章や管理番号で紐付けされていないことがあります。 注文書に契約書の番号が書いていないために、該当する注文行為がどの契約内容に紐付いてるかがわからないわけです。 そうなると、追加の予防策を講じることになります。
例えばこんなことを先方に確認します。
「注文書に記載されている契約書名XXXXXXは、〇年〇月に交わした契約書番号△△△△△△のことを指している」
ということを追加の文面(覚書やこれに類似するもの等)に残しておきます。 こうすることで万が一のトラブルに備えています。 後々にお互いに揉めたりしないように配慮しているのです。
STEP4.質疑応答を繰り返す
STEP2~3で発生した不明点やお願い事項などをもれなく先方に連絡します。
契約作業でもっとも骨の折れるのが、この工程になります。 やりとりの手段はメールが主です。メールの行き来はおよそ通常30往復ほど発生します。 加えて以下の2点の要素も加味するように留意しています。
その1:バカンスがある
日本人以上に仕事とプライベートをきっちりと分けている方が多い印象を受けます。 メールを送ったからといって直ぐに返信が返ってくるわけではないので、この点は考慮しておく必要があります。
その2:時差がある
例えばアメリカのワシントンD.Cと東京ならば、東京のほうが14時間進んでいます。 東京で17:00ならば、ワシントンD.Cは午前 3:00です。 メールの返信を受け取れるのは早くても翌日ということになります。
これらを加味して、初めての契約の場合はおよそ3ケ月~4ケ月程度の期間を要する想定で考えています。
STEP5.社内の多重チェック
こうして契約書の内容把握が済んだら、社内で改めて多重チェックをします。 担当者(この場合だと私)の判断だけで重要な契約処理が進んでしまわないように、所属部署の関係者・法務部関係者がチェックする体制になっています。 企業間取引においては契約内容に準拠し、これを履行することが根底にあるため、契約書のチェックは厳重に進めることになります。
イメージとしては以下の流れです。
(1)担当者が起案する
↓
(2)所属部署の上長が確認する
↓
(3)法務部担当者が確認する
↓
(4)法務部上長が確認する
ここまで進むとゴールがようやく見えてきます。担当としてはほっと胸を撫でおろし始めるのもこの時期です。
STEP6.製本と署名
各チェックが終わるといよいよ製本・署名といった工程になります。
これまでは「製本」という言葉のとおり、紙媒体のやりとりが主流でした。 近年になりこの流れが変化し、デジタル署名方式も増えてきています。 紙媒体だとどうしても海外の指定の住所などに郵送になるわけで、短時間で確実に相手に届くデジタル署名が今後は主流になってきそうです。
契約締結
長い道のりでしたが、こうして契約が締結されます。
契約が締結されると技術情報が開示されるので、開発チームの仲間がようやく必要なモジュールなどを入手し、ソースコードの記述に入ることができます。
ライセンスの継続利用には更新が必要
最後にこの点が盲点になりがちなのですが、DRMのライセンス利用は 毎年/数年毎 等の頻度で契約更新が発生します。
万が一契約更新が滞ったり遅れたりすると、既に配信中の動画が突然視聴できなくなるという事態になってしまいます。 なので契約更新日には細心の注意を払いながら、更新手続きを繰り返します。
最後に
動画配信における技術開発は日進月歩であり、特に私が所属する配信基盤チームは開発スピードが速いと感じています。
だからこそ、契約回りがネックになってチームの足をひっぱらないように早めに動くように心がけています。 これからもチームを陰で支えることができるように精進したいと思います。
おまけ
私が動画配信の世界に携わったのは、17年前の2003年頃。 当時はガラケーの発展期で、解像度が100ピクセル弱で尺も15秒程度の動画配信を皮切りにこの世界にのめりこんできました。 (現在、解像度は2Kや4Kがあたり前の世になっており、このこと自体こうして振り返ると信じられません!)
一つの業界に長くいることで、技術と世の中の変遷を目の当たりにできるのは、非常に幸せなことだと考えています。 まだ見ぬ未来の動画配信の姿にわくわくしながら、自分にできることを少しずつ積み上げてこの業界に貢献したいと思います。
※イラスト提供 「さつきさん」