DMMには膨大なデータが蓄積されている
大浦さんは前職でもデータサイエンティストとして働いていたんですか?
大浦:いえ、前職はコンサルティング会社で3年ほど働いていたんです。ただ、もともとプログラミングにとても興味があったので、最初の2年間はコンサルタントとして働き、最後の1年間はエンジニアとして働いていました。仕事内容としては企業のDX化がメインでしたね。
どうして転職先にDMMを選んだんですか?
大浦:コンサルの仕事って他社さんの施策支援まで、というのがほとんどなんですよ。仕事を続けていくうちに「もっと当事者としてサービスの拡大に携わりたい」と考えるようになりまして。それでまず事業会社への転職を考え始めたんですよね。
DMMに決めたのは、自分のやりたいこととマッチしていると思ったからです。DMMはさまざまな事業を展開しているからこそ、活用できるデータが膨大にあります。しかも、以前から意思決定においてデータを活用しているイメージがとても強かった。データ分析が事業に貢献できる環境が整っていると思ったので入社を決めました。
いまはマーケティング本部のデータ戦略部でデータサイエンティストとして働いています。データ戦略部のミッションは、シンプルにいうと、データを活用して各事業を伸ばすこと。さまざまな施策を成功に導くため、社内に蓄積されたデータを日々分析し、提案しています。
土屋さんも、大浦さんと同じくマーケティング本部の所属なんですよね?
土屋:そうですね。私が主に任されているのは電子書籍事業におけるマーケティングの統括。現在はデータ戦略部と二人三脚で、データマーケティングに強い組織にするべく体制を構築しているところです。そんなこともあって、大浦のような社内のデータサイエンティストとはよく一緒に仕事をしています。
データ分析は当たり前を疑うことから
これまでどんなデータ分析を行なってきたんですか?
大浦:例えば、アニメ事業部の方から「データに基づいて次にアニメ化する作品を検討したい」といった依頼がデータ戦略部に対して来たことがあって、その際は私が分析を担当しました。
分析にあたり着目したのは、DMMが所有する膨大な電子コミックの購買データです。「感度が高いとされるアーリーアダプターが現在注目し、なおかつまだ流行っていない作品は今後流行る可能性がある」このような仮説を立てたうえで実際に検証を進めていきました。
どのようなステップで分析を進めていったのでしょう?
大浦:まずは仮説自体の検証からですね。先ほどの仮説って、けっこう自明といいますか、多くの方が「そりゃあそうでしょう」となると思うんです。ただ、実際にデータを確認するまで正しいとは言い切れない。自明のことでも疑うというのはデータサイエンティストとしてすごく大切なことだと思います。実際に仮説を検証してみた結果、どうやら間違っていないということがデータから読み取れたので、こちらを軸に分析を進めていきました。
これが実際の分析結果なんですね。
大浦:こちらの図には、作品Aが話題になる前から作品を購入していたアーリーアダプターが、現在どの作品を買っているのかがプロットされています。
縦軸が意味しているのは、アーリーアダプターが購入している割合とレイターマジョリティが購入している割合の差分です。この値が大きいほど、アーリーアダプターが多く購入しています。そして横軸は、作品Aの配信開始からの経過日数を意味しています。左に行くほど1巻が出て間もないということです。
つまり、左上に位置する作品ほど配信から日数が経っておらず、なおかつ多くのアーリーアダプターが購入している作品ということになり、次にアニメ化を検討すべき作品ということになります。こういった分析をさまざまな作品で繰り返して、アニメ事業部には最終的な提案をさせてもらいました。アニメ事業部も電子書籍事業部もあるDMMだからこそ実現した分析だったと思います。
マーケとデータの専門家の協力体制
データサイエンティスト側から施策提案することもあるんですか?
大浦:ありますね。どの観点から事業をグロースさせるかを考えてデータを出し、施策デザインまで行って提案してます。内容が合理的であり、試算結果もよければ基本的には受け入れられますし、こちら側からの提案はかなり需要がある印象です。
マーケとデータの専門家の協力体制が整っているんですね。ビジネスサイドから見たDMMのデータ分析の強みってどういったところなんですか?
土屋:使えるデータがたくさんあるという点もそうなんですけど、なによりデータ戦略部の方とコミュニケーションが取りやすいというのはかなり大きいと思います。やっぱりマーケターより、データサイエンティストのほうがデータの扱いには長けていて、知識の差というのはどうしても生じてしまうんですよね。
ただ、そんなときでもデータ戦略部の方は「そんなことも知らないんですか?」と突き放すことなく、マーケターがデータの意味をきちんと理解し、解像度が高くなるまで説明してくれる。すごく寄り添ってくれるから相談しやすいんですよね。
大浦さん、そうですよね?(笑)
大浦:はい、そうです(笑)。でも本当に冗談ではなくて、私たちがデータを分析して伝えても、それを受けた誰かが動いてくれないと意味ないですし、存在価値もないのかなって思っています。だから、内容も大事ですけど、いかに理解しやすいようにデータの意味を伝えるかはすごく意識していますね。
「小さな気づき」から生まれた大きな売上効果
土屋:そういえば、僕はタッチしていませんけど、ものすごい結果につながったデータ分析がありましたよね?
大浦:画面に表示される作品のサムネイルの大きさを変更した話ですよね。これまで電子書籍などのARPUを向上させる施策って、ポイントやクーポンを配ったりするものが多かったんです。でも、私はそれ以外のアプローチでも結果を出す方法があるんじゃないかと思って、画面上に表示されるサムネイルの大きさに注目しました。情報量の観点からサイズを大きくしたほうが各作品のARPUも向上するのではないかと仮説を立てました。
実際に行なった分析はシンプルです。それぞれサイズを変更したサムネイルを用意してABテストを行いました。その結果、やはり大きいサイズのサムネイルのほうがARPUの数字が良かった。売上でいうと2%向上させることに成功しました。
土屋:たかだか2%と思うかもしれませんが、マーケティングコストを一切かけず、データ分析だけでこの結果ですからね。しかも、これを受けて別ジャンルの商品にまで展開しています。総額で計算したらこの数字以上の結果が出ているはずですよ。
大浦:DMMは各サービスが抱える会員数が多く、扱っている金額も大きい。ですから、この分析事例もそうなんですが、自らの仮説やデータ分析の切り口次第で、年間にすると何億という効果が表れることがあります。ダイナミックな仕事に携われるのはデータサイエンティストとして大きなやりがいですよね。
結果を出すのは遊び心のある人間
現在DMMではデータサイエンティストを絶賛募集中とのことですが、おふたりはどんな方と一緒に働きたいですか?
大浦:自分で仮説を考えていくことが大半なので、好奇心旺盛であってほしいとは思いますね。あとは、とことん考え抜けること。データサイエンティストは、正解がわからない仕事でもあります。自分の分析が果たして有効なのかという問いには常に向き合い続けなければいけません。
土屋:マーケターとしては一緒に遊んでくれる人がいいですよね。「こんなことができたら面白いですよね?」って、ドラえもん的な発想で仕事をするのがすごく大事だと思うんですよ。型にハマったことばかり考えていたら結果は出せないというか。
大浦:たしかにマーケターの方々って、いつも面白い分析テーマを持ってきてくれますよね。データサイエンティストの私としてもすごく楽しいです。
土屋:DMMってそういうことができる会社なんですよね。ただ、現時点ではデータ活用に対する感度がマーケターのなかでもマチマチになってしまっているので、今後は組織体制を改善していきながら底上げをしていきたいですね。データサイエンティストの方々と協力しながら、解像度高く分析ができるチームができたらと考えています。
大浦:いまやデータサイエンティストも危機感を持たなければいけなくなりました。それこそチャットAIの進化が凄まじいじゃないですか。単なるデータ分析ならAIのほうが早くなると思います。
でも、DMMの良いところはそういった仕事よりも、抽象的なテーマにアプローチするデータ分析のほうが多いこと。これからの時代を生き抜くロバストな人材として、成長するための経験がたくさんできる会社だと思います。